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【会報掲載コラム】アートとサイエンスが奏でる ハーモニーに魅せられて 藤井 ひとみ / n°284

自然に還っていく絵具を、自然素材から作りたいという想いから、フランス政府の奨学生に挑戦したことが、全ての始まりでした。フランス人学生に混ざりながら、大学院に通う中、修復保存科学という分野に出会ったのは、フランスの大学院に来て2年目のことです。

ローマ時代から20世紀まで及ぶ遺跡や絵画、そういったものが日常のように発見され、研究されているフランス。元々は考古学や歴史学だけの分野だったものが、20世紀から急速に科学分析の介入が始まり、曖昧だった年代測定や美術品の産地、作者の特定など、真実が明らかにされるようになりました。修復保存科学というのは、例えば、教会の壁画は時代によって絵が重ね塗りされ、修復する過程で、どの絵を残すかを決める情報を得るため、絵具の一部を取り、分析をすることです。自分が生きているよりも、もっと昔から存在するその絵が、いま目の前にあり、歴史の奥深さをこの学問を通して知った時、目には見えない驚きと感動を肌で感じ、心が震えたことは今も忘れません。
当初、私は昔の絵具のレシピや色の顔料に興味を持ち、学んでいく中で、日本の画材や絵具の原料、伝統色の歴史にも関心を持つようになりました。その後一度日本に帰国し、フランスで学んだことを活かすため、絵具を自分で作ったり、色彩を追求しながら、アートと科学の融合を広めることを目的としたアーティスト活動を始めました。
再びフランスに来たのは2015年のことです。以前学んだ南仏の大学院にて、修復科学の分野をさらに探求するため、博士課程に進みました。今度は地中海に沈んだ船に眠る、中身がない状態で発見されたアンフォラというローマ時代の壺に、何が入っていたかを探る、冒険に満ちた未知の研究でした。
卒業後の現在は、パリのCentre de Recherche et de Restauration des Musées de France にて化学分析研究員として働いています。様々な時代の多様な美術品がフランス中から、世界中から集まってきます。考古学者、学芸員、修復師、物理学者、化学者、地質学者、写真家、司書、色んな分野の研究員が集まっているのは、フランスでもここが珍しいとのことです。

フランスは日本と違い、休暇が多く、ランチの時間もしっかり取り、ゆったりと仕事をする、南仏にいた当時はそんな印象を受けていました。しかしパリでは東京と同じように、朝早くから夜遅くまで仕事をする人もいたり、ランチの時間を削ってまで走り回ったり、その皆の情熱にとても心を打たれました。
研究所というと、硬いイメージがあると思いますが、クリスマスには各部署でクリスマスツリーを作ったり、Mardi grasにはクレープを作ったり、仮装大会があったりと、年中何かしらの催し物があり、とても親しみと活気がある雰囲気の中、仕事をしています。
日本では早稲田大学にて、これから教員になる学生たちに向けた、アートとサイエンスをテーマにした授業を担当しています。日本ではまだ馴染みの少ない、修復保存科学という分野や、サイエンスをアートの視点から考える機会を提供し、難しいというイメージの科学を楽しんでもらう、興味を持ってもらうことに力を注いでいます。日本人会の方向けにも、昨年からアート・デ・サイエンスという講座を始め、アートを科学の視点から見る機会を提供しています。
日本の古き良き文化や暮らしが好きで、考えれば私は日本を出る必要はなかったかもしれません。でもそういうものを超えてまで、取り組みたいものに、フランスで出会い、科学とアートの共存がすでに歴史にあり、リスペクトされている国だからこそ、私は今、魅かれてここフランスにいるのだと思います。
日本にもフランスにも独自の尊い歴史と文化があり、それを守り継承していく、その想いに、国は関係ないと思います。日本ではまだ認知が浅いこの分野を広めるために、私はここで学び、自分が貢献できることに精一杯尽くすことしていきたいです。

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