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コロナウイルス予防のためのQ&A / 江里俊樹先生(パスツール研究所 自然免疫分野博士研究員)

以前マロニエの会で講演をしてくださったパスツール研究所 自然免疫分野博士研究員の江里俊樹先生が、会員の方からの質問にご回答くださいました。

<質問>

マクロン大統領は間隔を 1m おいた方が良いと言っています。以前先生の講演会の折にもっとだった様に思うのですが、如何でしょう?

次にマスクの効用について、どうなのでしょうか?
日本人として、マスクは当たり前の感覚ですが、ネット等の情報では、フランスでは付けないでいい、感染したら付ける、マスクを上手に使わなければ却って悪い、などなどのコメントが多いです。

あと、一度使ったマスクは捨てないといけないのでしょうか?
あくまでも買物に行った時などの潜在的な保菌者からの予防の観点からの質問です。

<回答>

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の主な感染経路は飛沫感染、そして接触感染もあると考えられています。
飛沫感染について昨年の講演ではインフルエンザを例にお話ししましたが、感染者が喋った時に飛ぶ目に見えない飛沫(しぶき)に乗ってウイルスが運ばれ、吸い込んだ人が感染するというものです。

今回の新型コロナウイルスも基本的には同様です。
飛沫の飛ぶ距離は約1.5 mとお話ししましたが、いろいろな条件で変化しますので、大体の目安とお考えください。
フランス政府とWHOは1 m、米国CDCは2 mの間隔を推奨しています。
最低1 m以上離れるという考えで良いと思います。

ただし、これは対面で話す時のことで、咳やくしゃみをすると飛沫はずっと遠くまで飛びます。
ですので、咳エチケット=咳・くしゃみをするときはティッシュ・ハンカチ、マスクまたは肘の内側で口・鼻を抑えること、がとても重要です。

また飛んだ飛沫がどこかに付着して、それを触った手で自分の口・鼻・目を触ることでも感染します(接触感染)。
したがって、こまめな手洗いを徹底すること(通常の石鹸やアルコール消毒が新型コロナウイルスには有効です)、顔を触らないようにすること、がとても重要です。
一つのデータとして、このウイルスはダンボールの上で24時間、ステンレスで2日、プラスチックで3日生きることが報告されています。

このウイルスの厄介な点は、潜伏期間が1週間前後と長く、また症状がない感染者からも感染するということです。
今感染が拡大しているフランス内では、誰かに会えば感染する可能性があり、また知らないうちに誰かに感染させてしまう可能性があります。

予防のためには、繰り返し言われていますが、
・ 外に出ない、なるべく人に会わない、どうしても会う時には距離をとる
・ こまめな手洗い (石鹸またはアルコール)
が大原則であり、何より大事です。

さてその上で、マスクの効用ですが、マスク自体には 「正しく使えば」 飛沫感染や接触感染を予防する効果はあります (後述します)。
ただし今回の新型コロナウイルスのパンデミックにおいて、WHO、CDC、フランス政府、日本の厚労省のいずれも、予防目的でのマスクの使用を推奨していません。

マスクの使用が推奨されるのは
1. 医療従事者、感染患者のケアにあたる人
2. 感染して症状のある人
のみです。

まず1. に関しては、マスクの不足はすぐさま医療従事者の感染リスクに繋がります。
今回の新型コロナウイルスでは医療従事者の感染が多く、フランスでも医師が亡くなっています。
また医療従事者を介して感染を広げてしまう可能性も考えられます。
医療従事者へのマスク不足はあってはならないことです。

2. は飛沫の飛散自体を予防することになるので、より効果的にウイルスの伝播を予防することができると考えられます。
そして現在フランスを含む多くの国で実際マスクは不足しており、政府が供給量の増加と分配のコントロールを行なっています。
限られた医療資源をより効果の高い順に使おうというわけです。

みなさんのお手持ちのマスクの予防的使用を否定するものではありませんが、正しく使用しないと貴重な医療資源を失ってしまうことになります。

さて、 「正しい」 使い方とは・・・

・口と鼻をふさぎ、顔との間に隙間ができないようにする (鼻が出ていたり隙間があると飛沫を吸い込むので効果がありません。つけている間にもずれたら直す必要があります)。

・マスクを触る前後に手洗いまたは手指消毒をする (ウイルスのついた手で触るとマスクがウイルスで汚染されて、感染リスクにつながります)。

・湿ったら直ちに破棄、マスク表面を触らないように外す、再利用はしない。
(以上、WHOの医療従事者向け推奨より)

最後に、個人的な見解としては、例えば業務上どうしても人に会うとき、またスーパーの中など不特定の方に接する可能性のある場所でマスクをするのはありだと思っています。
それは人から飛沫をもらわない、だけでなく、人に感染させない (自分も潜在的な保菌者として) 、という意味もあるかと思います。
手持ちのマスクの枚数によっては再利用せざるを得ないこともあるでしょうか。ただ、いずれにせよ効果は限定的、不完全な予防法で、場合によってはリスクを高めるかもしれないことは念頭においていただく必要があります。繰り返しますが、何より大事なことは、

・ 外に出ない、どうしても出る時には他人と距離をとる
・ こまめな手洗い(石鹸またはアルコール)

の2点です。

皆様のご健康と、パンデミックの早い収束を心よりお祈り申し上げます。

江里俊樹:パスツール研究所 自然免疫分野博士研究員