『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』髙崎 順子
在仏日本人会会員の皆さま、こんにちは。パリ郊外に住む日本人ライターの髙崎順子と申します。本年5月、フランスのバカンス文化とそれを支える制度・働き方をルポした本を『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』と題して上梓しました。
フランスの現行の労働法では、年間5週間の有給休暇取得が義務となっていることをご存知でしょうか?この休暇は雇用主が従業員に「取らせなければならない」もの。加えて、そのうち最短2週間・最長4週間を、5月〜10月のどこかで、途切れなく取得せねばならない、との規則もあります。この法律を遵守するため、臨時休業しても、サービスを縮小しても、何がなんでもバカンスを取る・取らせる。それでも事業を継続できるよう、経営者はあらかじめ年間計画を立てる — 7・8月に多くの人が街から出払ってしまい、社会全体がペースダウンする現象には、この労働法が関係しています。
日本で生まれ育ち、20代半ばにフランスに移住した私は、そんなフランスの様子に毎年驚きを改めながら、自分自身はどう頑張っても、最大1週間の休暇しか取得できずにいました。それ以上長い日数、仕事を止めてしまうのが怖いし、ハラハラ落ち着かなくて逆に心が休まらないから。その一方で、一体全体フランスの人々はどうしてこんなに休めるのだろう? と、年々好奇心が募っていきました。
個人的な関心から、バカンス関連の本を読みドキュメンタリーを見て周囲を観察するうちに、ふるさとの日本でも変化が起こりました。過労死や自殺、燃え尽き症候群が多発する労働環境を改善すべく、2018年、国会で「働き方改革関連法」が可決。2019年4月より「年次休暇のうち一部の日数を、雇用主の義務で従業員に取得させる」改正法が施行されたのです。それを境に日本の友人知人から、問いが寄せられるようになりました。「フランスはどうやって、バカンスを回しているの?」「それで仕事が詰まないのはなぜなの?」私が長年不思議に思い、好奇心を持って観察してきたフランスのバカンス文化が、過渡期の日本のヒントになるかもしれない……そうして本格的に調査・取材・執筆をしたのが、この本です。
本は5章構成で、第1章ではフランスのバカンスの歴史を、1936年の年次休暇法制化からコロナ禍その後の現代まで紐解きました。「休暇は人間の尊厳」というフランスらしい人道的な理念とその普及の過程は、歴史ドキュメンタリーもかくやの面白さ。第2章・第3章では幅広い職種・業種でフランスの現役世代に取材し、従業員側と雇用主側のそれぞれから、「休むための業務管理と働き方」の実例をルポ。続く第4章では、バカンス文化がフランス社会にもたらす経済効果をデータとともに概観しています。最終章では、現代日本で「休める働き方」を実践している管理職・経営者にも話を聞きました。この本の執筆を通して、私自身、2週間連続で休むテクを身につけた、とのオマケもつきました。
在仏の方々には、フランスのバカンス文化を客観的に再確認できる読み物になっているかと思います。同時に、母国日本の労働意識の変化を把握し、日本に住むご家族ご友人、ビジネスパートナーとの対話のタネにもお使いいただけるのではないでしょうか? パリではジュンク堂書店のほか、電子書籍での入手も可能です。是非、お手に取ってご覧ください。
【略歴】髙崎 順子
フランス社会・文化を題材とするフリーライター。1974年東京生まれ、埼玉育ち。東京大学仏文科を卒業後、2000年よりフランスに居を移す。機内誌や女性誌、ビジネス誌、ウェブメディア等に寄稿しながら、独自企画の書籍を書き下ろす。既刊に『パリ生まれ プップおばさんの料理帖』(新潮社、オプティ美保氏との共著)、『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮社)。最新刊は『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)。