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片川会長から新年のご挨拶

新年おめでとうございます。

令和6年の新春を迎えるにあたり、会員の皆様とそのご家族のこの一年のご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げます。
8年前の11月13日夜にコンサートホール『ル・バタクラン』で起きたテロで、世界中の共感を呼んだ言葉があります。
『Vous n’aurez pas ma haine, あなたたちは私の憎しみを得ることはできない』テロで妻を亡くしたアントワンヌ・レリス氏がSNSに投稿した手紙の書き出し部分です。そして、こう続きます。『金曜日の夜、あなたたちは私にとってかけがえのない存在であり、人生の最愛の人である、私の息子の母親の命を奪ったが、あなたたちは私の憎しみを得ることはできない』悲しみに打ちひしがれるなか、テロリスト宛に『憎しみに対して怒りで応えることは、今のあなたたちを作り上げた無知に屈することを意味する』と憎悪を否定しました。そして『あなたたちは私が恐怖におののぎ、安全のために自由を差し出すことを望んでいるんだろう。あなたたちの負けだ』と書き付けました。『私は息子とたった2人になったが、それでも世界の全ての軍隊よりも強い』
投稿は3日間で20万人以上が共有し、新聞一面に掲載されました。
今、この瞬間も、憎しみが報復を生む連鎖がウクライナでパレスチナ自治区・ガザ地区で止まるどころか激しさを増しています。紛争状態にあるのは、ウクライナやガザだけでなくアジア、アフリカの国でも犠牲者は増すばかりです。
先の大戦の反省から、国際法の支配による平和が目指されました。国連が設立され、加盟国は武力の行使を慎むことが憲章で謳われました。国際人道法も整備されました。しかし武力衝突を防ぐ役割を担う安保理が機能不全に陥って久しいものがあります。即時停戦を求めるガザ決議案は、米国の拒否権で否決されました。中国、ロシアも拒否権行使によって類似の決議案を否決に持ち込んでいます。安保理は、ウクライナ侵攻に対しても非難決議を出せていません。世界の平和と安定を維持するために築かれてきた戦後の枠組みは、待ったなしで再構築を迫られていると言えます。
憎しみに対して報復を繰り返す先に待っているのは破滅ではないでしょうか。国や民族、宗教を超えて一人一人が支え合い、連帯することで負の連鎖を断ち切らなくてはなりません。そのためには、社会には多様な価値観があることをお互いに認め、守り育てる必要があることを痛感するものです。
『あなたたちに憎しみをあげない』が共感を呼んでいる時、日本の志ある映画人とその友達から、東日本大震災被害者のご遺族が手作りされたお人形をパリテロ被害者のご遺族の皆様にお渡しいただきたいという話が、狂言の普及に尽力されている小笠原尚子さんから持ち込まれました。フランステロ被害者協会(L’Association française des Victimes de Terrorisme)と連絡が取れ、300個の人形を多くのご遺族の方ご出席のもとに手渡すことができました。人形に添えられていたメッセージを読み上げましたが、その一部を紹介したいと思います。
―引用―
日本では2011年3月11日、東日本で大地震という理不尽な自然の猛威で多くの命が奪われました。その時、フランスの国民や、アラブ諸国の国民、そして歴史問題で日本と揉めている中国や韓国の国民など世界中の人々が、日本の被災地のために、多くの支援をしてくれました。そのかけがえのない、人間としての繋がりを信じて、宗教や人種や思想、国の利害関係から生まれる殺戮ではない、本当の人間の絆を意味する手作りの人形を、フランスの遺族の皆さんにも、なんとか渡したいと考えました。
この手作りの姫人形は、5年が過ぎても今だに復興できていない、宮城県南三陸町の仮設住宅に住んでいるお婆さんたちの姫人形です。もし、この人形が海を越えて、パリの遺族の皆様に届けられたら幸せです。―日本のボランティアよりー
―終引用―
姫人形を受け取ったご遺族の方が、笑顔の涙目で両手で握手を求めてこられた時、私も視界を滲ませて笑顔で両手を差し伸べました。『絆』という言葉が、私の魂に刻まれる瞬間でした。日本では、3.11から干支が一回りした矢先の元旦に、石川県能登地方を震源とする最大震度7の地震が発生しました。お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災されました皆様に心からお見舞い申し上げます。2011年に日本中に溢れた『絆』という言葉を思い起こし、皆で声を掛け合い励まし合って乗り切ってほしいと思います。
この一年が皆様にとって争いや憎しみのない穏やかな一年となりますことを心からお祈り申し上げます。

令和6年1月吉日
片川 喜代治
在仏日本人会会長