1. HOME
  2. トピックス
  3. コラム
  4. 内科医のよもやま話(8)「フレイルの予防と抗加齢医学の最前線」/久住静代

内科医のよもやま話(8)「フレイルの予防と抗加齢医学の最前線」/久住静代

1.フレイルの予防

「フレイル」とは「虚弱」を意味する英語が語源で、健康とは言えないまでも、介護が必要な状態ではない状態のことです。その内容には多面性があり、可逆性もあるのが特徴です。

フレイルの種類は、主に3つあります。一つ目は、「身体的フレイル」です。運動器機能の低下(ロコモ、サルコペニアなど*)、口腔機能の低下、低栄養などです。二つ目は、「精神・心理的フレイル」です。定年退職や、パートナーを失うことで引き起こされ、うつ状態や認知症の状態などです。三つ目は「社会的フレイル」です。加齢に伴い社会とのつながりが薄くなり、閉じこもりや経済的に困窮した状態などを指します。

これら3つのフレイルが連鎖することで、老いは急速に進みます。連鎖の入り口は人によって異なりますが、フレイルは可逆性があります。すなわち、一度、フレイルになっても回復したり、悪化したり、その状態は常に変化するということです。健康に問題なくても常に自分のフレイル度を意識し、予防に取り組むことで老化の進行を緩やかにし、健康に過ごせる状態に戻すことができます。

以下、フレイル度のチェックシートを示します。11項目の質問に答えて、自分のフレイル度をチェックしてみましょう。また、定期的にチェックしてご自身の変化を確認しましょう。
—–
* ロコモ (Locomo)とは、ロコモティブシンドロームの略称。骨や関節、筋肉など運動器の衰えが原因で、歩行や立ち座りなどの日常生活に支障をきたしている状態のこと。サルコペニア (Sarcopenia)とは、加齢に伴い筋肉量が減少する状態のこと。ギリシャ語のサルコ(筋肉)とペニア(減少)の造語。

回答欄右の黄色い部分が3~4個ならフレイル予備群、5個以上ならフレイルの可能性が高いと言われています。フレイル度がわかったら、早速、予防を心がけましょう。

フレイルの予防には、3つの柱があります。まず、「栄養」です。たんぱく質を中心にバランスよく食事を摂るとともに、噛む力など口腔機能の維持が大切です。次は、「運動・身体的活動」です。無理なく軽い運動を継続することから始めましょう。そして、就労やボランティア活動、友達とのおしゃべりなど、「社会参加」です。

人生100年時代になり、伝統的な教育・仕事・引退という三段階で考えれば、長い引退期間を過ごすことになります。長寿は大きな恩恵と考え、この三段階に囚われず、人生をマルチステージにする工夫が必要でしょう。そのためにもフレイルを予防し、自立した生活が強く望まれます。

2.抗加齢医学の新規治療技術最前線

加齢に伴い、病気だけでなく、老年症候群(サルコペニア、ロコモ、軽度認知症など)の増加や、ケガや手術、感染症などからの回復力(レジリエンス)の低下が認められるようになりますが、近年、多くの研究から加齢現象の背景に細胞レベルの老化が関与していることが明らかになってきました。最後に、抗加齢医学における主な新たな試みを紹介します。

1) 老化細胞除去治療(セノリティクス)
細胞分裂を停止した老化細胞は、周囲に無菌性の慢性の炎症を波及させ、組織の機能異常を起こして病気の発症や進展をもたらすと考えられています。まるで腐ったリンゴから他のリンゴに腐敗が広がるように、周辺の細胞を老化に引きずりこむのです。
このため、そのような老化細胞を適切に除去できれば、健康維持や老化制御などの抗加齢効果をもたらすことが期待でき、また、心機能に関わる細胞の若返り、視力の回復、椎間板の修復など多くの可能性があり、そのための研究、開発が進められています。
こうした老化細胞除去治療は、老化を意味するsenescenceと、対抗を意味するlyticsを合わせ、senolytics(セノリティクス)と呼ばれています。

2) ゲノム編集
近年、加齢に伴い発症する病気や老いに様々な遺伝子変異が見つかり、この遺伝子変異を修復できるゲノム編集技術が新しい治療戦略として注目されています。
ゲノム編集を用いた遺伝子治療は、体内の細胞を直接ゲノム編集するin vivo治療と、体外に取り出した細胞をゲノム編集するex vivo治療に分けられ、滲出型加齢黄斑変性症の治療などに成功しています。

3) 治療ワクチン
ポストコロナ時代のワクチン開発により、感染症の予防だけでなくアルツハイマー病や高血圧、慢性炎症疾患の治療にワクチンを応用する研究の実用化が進んでいます。
1)で述べた老化細胞除去にワクチンを利用して老化細胞を除去したところ、肥満に伴う糖代謝異常や動脈硬化、加齢に伴うフレイルが改善するばかりでなく、早老症マウスの寿命が延長することを確認したとの研究報告もあります。

—–
参考資料:
1) 日本抗加齢医学会会誌2024:6
2) 厚生労働省
01 (mhlw.go.jp)
広報誌「厚生労働」2021年11月号 特集1|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
3) 東京大学高齢社会総合研究機構
東京大学 高齢社会総合研究機構 (u-tokyo.ac.jp)
4) 老化細胞除去ワクチンの開発に成功¯アルツハイマー病などの加齢関連疾患への治療応用の可能性¯ | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (amed.go.jp)
========
久住静代(くすみしずよ)プロフィール:
東京の赤坂おだやかクリニック名誉院長。抗加齢医学の専門医として、人生100年時代、いかに老化のスピードを遅くして、生涯、健康に自力で心豊かに生きるかという課題に取り組んでいます。

今後のトピックス

| コラム