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「パティシエールまたは連れ去り犯の言い分」 パリュス あや子 著

「君を『連れ去り』で訴える」 ――
六月に「子供の連れ去り」をテーマにした長編小説を刊行しました。フランスでは外国人妻(特に日本人妻)がフランス人夫と別れた後、子供を連れて自分の国に戻ってしまう問題はよく話題にされますが、日本ではほとんど知られていないように思います。
私がこの問題に深く関心を持つようになったのは、在仏日本人会会報で紹介していた「France 2」制作のドキュメンタリー番組を見てからです。日本人妻に連れ去られた子供と会うために、二人のフランス人の父親が日本まで出かけていくもので、胸の抉られる内容にショックを受けました。
父子が再び笑顔で対面できる日を祈るばかりですが、一方でフランス人と結婚して子供を授かり、フランスで暮らす日本人妻として、連れ去りをした妻が「絶対悪」として描かれる構造を恐ろしくも思いました。もちろん「子供の連れ去り」を肯定はしませんが、そこまで追い込まれてしまった日本人妻の「言い分」もあるのではないか…というのが本作を書くきっかけでした。
四年ほど前に小説の構想を始め、親権や連れ去りに関する資料や記事などを読みながら、フランスで子育てをしている日本人のお母さん方の知見や日本人会の法律相談で弁護士のお話を伺ってきました。この繊細で複雑なテーマをどのように描けばよいのかずいぶん悩みましたが、「子供の連れ去り」は国際結婚だけで起きることではなく、日本国内でも長らく問題になっていたことで、全ての家族に関わる「ごく身近な話」なんだという思いを新たにし、普遍的な「家族の物語」にしたいと考えました。
フランスでは離婚した両親のそれぞれの家を行き来している子供と少なからず出会います。そしてそれがごく自然に行われ、子供も順応しているように感じられます。子育ての方針は各家庭で異なり正解は存在しませんが、私は共同親権には賛成で、DVなどの問題がない夫婦は別れた後も共に子供の成長を見守り支援していくべきだと考えています。様々な意見があると思いますが、日本でも共同親権になったタイミングで「家族の形」について思いを巡らす作品になればと願っています。

『パティシエールまたは連れ去り犯の言い分』概要
娘とともに日本、実家の横浜に戻り、フランス人夫との連絡を断って一年。ある日、妻の元に届いた一本のメールには「KIDNAPPING(連れ去り)」の文字が。 念願のパリでのパティシエール修業。運命と信じて疑わなかった夫との出会い。フランスでの出産。少しずつ破綻してゆく生活。小学校入学を控えた娘の進路ーー。
妻に持ち込まれたケーキコンクールへの参加が、そのすべてを混ぜ合わせ、避けてきた夫と向き合うことを決意させる。
娘と母。母と夫。夫と娘。日本とフランス。さまざまな親子がすれ違いながら描かれる、「家族」のありかたを問う物語。

パリュス あや子 (ぱりゅす・あやこ)

神奈川県横浜市生まれ、フランス在住。広告代理店勤務を経て、東京藝術大学大学院映像研究科・脚本領域に進学。『隣人X』で第14回小説現代長編新人賞を受賞、2023年に映画化された。他の著書に『燃える息』、『アレアレ!』、『パリと本屋さん』。

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