1. HOME
  2. トピックス
  3. コラム
  4. 内科医のよもやま話(5)「全身の老化は口腔から始まる―口腔の健康を考えるー」

内科医のよもやま話(5)「全身の老化は口腔から始まる―口腔の健康を考えるー」

口腔は、「話す・食べる・呼吸をする」という生きていくために不可欠な機能に加え、噛む動作が脳を刺激し、唾液に交じって免疫物質を分泌し、異物を排除するなど、健康維持に必要な機能を果たしています。加えて、美味しさを感じる(味覚)、表情を作り感情を表現するなど、人が人らしく生きるために重要な役割も担っています。生命維持とコミュニケーションの双方に大きな役割を果たしていると言えます。

口腔の2大疾患は「う歯(むし歯)」と「歯周病」で、歯を失う主な要因になっています(*1)。歯を失うことは咀嚼力や咬合力を失うだけでなく、生活の質を低下させ、認知症のリスクを増加させることが報告されています。
日本のデータでは、歯の数は30~40歳代で28本、50歳代で26本、60歳代で22~23本、70歳代で18~19本、80歳代で10~15本です。一方、要介護者の残存本数は60歳代で7本、70歳代で3本との報告があります。
20本以上の歯があれば食生活をほぼ満足に遂行できることから、「生涯、自分の歯で食べる楽しみを味わえるように」との願いを込めて、「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という8020運動(*2)が展開されています。美味しく楽しく食事をするために、歯はしっかりケアしましょう。

1999年、「施設入居の高齢者に、口腔ケアを実施することで誤嚥性肺炎の発症が低下し、健康な生活を享受できる。」ということが報告され(*3)、口腔の健康が全身の健康に大切であることが認識され、今日では様々な疾患との関連が明らかになっています。

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)により2020年から2023年の間、日本で「歯科受診控え」が生じたことにより「歯科受診を中断すると内科疾患の悪化につながる」という大規模なインターネット調査の結果が報告されました。
歯科治療を中断することで有意に悪化した病気は、糖尿病、高血圧症、高脂血症(脂質異常症)、心・脳血管障害、喘息でした。アトピー性皮膚炎、うつなどの精神疾患の悪化には影響はありませんでした。

一方、心理社会的ストレスが影響を及ぼす口腔疾患、口腔環境の変化の主なものは、唾液の性状の変化です。唾液の分泌は、自律神経(交換神経と副交感神経)の二重支配であり、ストレス下では交感神経が優位となって唾液の水成分が減少し、粘性の高い唾液となります。このためドライマウス(口腔乾燥)を訴えることがあります。ドライマウスの多くは唾液腺に器質的変化が見られないことから、歯科心身症の一つともとらえられています。
歯科心身症は、一般的には口腔内にさまざまな不定愁訴を訴えるものであり、心理的社会背景が症状の発症や憎悪に関与していると考えられています。

以上、口腔の健康と全身の健康、健康寿命のつながりについて、最近わかってきたことをまとめました。正しい口腔ケアの習慣をしっかり身につけましょう。

参考資料:
*1 日本抗加齢医学会誌 2024:2
*2 https://www.jda.or.jp/enlightenment/8020/
*3 Yoneyama T, et al. Lancet 1999:354

========
久住静代(くすみしずよ)プロフィール:
東京の赤坂おだやかクリニック名誉院長。抗加齢医学の専門医として、人生100年時代、いかに老化のスピードを遅くして、生涯、健康に自力で心豊かに生きるかという課題に取り組んでいます。

今後のトピックス

| コラム