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内科医のよもやま話(7)「食物繊維でアンチエイジング」/久住静代

アンチエイジング(抗加齢)医学の主な課題は、健康寿命を延ばし、要介護や死亡の原因となる病気の予防です。

2021年の統計によると、要介護の原因は、関節疾患・骨折・転倒が24%、心・脳血管疾患が20%、認知症が18%、老衰が15%で、死亡の原因は、悪性腫瘍が25%、心・脳血管疾患が22%です。健康寿命を延ばすには、筋肉・関節・骨などの運動器の衰えを防ぎ、がんや動脈硬化、認知症を予防することが重要です。

近年、これらの原因すべてに腸内細菌叢が関与しており、食物繊維摂取の重要性が明らかになってきました。今回は、食物繊維が健康寿命の延伸に果たす役割を考えてみましょう。

炭水化物には消化される糖質と消化されない食物繊維があり、食物繊維には不溶性食物繊維と水溶性食物繊維があります。不溶性食物繊維は保湿性と吸着性があり、便の量を増やし有害物質の排出を促進します。水溶性食物繊維には粘性と発酵性があり、粘性は栄養素の吸収を遅らせます。また、腸内細菌(善玉菌)によって発酵されて短鎖脂肪酸となります。

短鎖脂肪酸には、酢酸、プロピオン酸、酪酸などがあり、最近の研究から健康に役立つ様々な働きがわかってきました。

短鎖脂肪酸は食酢や牛乳、乳製品などの食品に含まれていますが、食べても体内ですぐに代謝されてしまい、その効果は一時的で、全身の健康に資するほどの量を摂ることはできません。短鎖脂肪酸を効率よく増やすには、食物繊維や糖質のオリゴ糖を豊富に含む食品を摂取し、それらを大腸内にすむビフィズス菌や酪酸菌などの善玉菌の力で発酵させて腸内で作り出す方法が有効です。

短鎖脂肪酸の働きを含め、食物繊維の効果は以下のとおりです。

① 肥満を防ぐ
インスリンの分泌を高め、脂肪の蓄積を抑制する。食欲を低下させ、エネルギー消費を高めることで抗肥満作用がある。

② 動脈硬化を防ぐ
コレステロール低下作用、高血圧改善作用がある。酪酸は炎症惹起遺伝子(NF-κB)の発現を抑制し、炎症性サイトカインや酸化ストレスを軽減させて血管内皮細胞の障害を防ぐことで動脈硬化を防ぐ。さらに酪酸は、マクロファージの遊走抑制、血管平滑筋の増殖抑制作用で血管内プラーク(動脈硬化巣)を安定化するとともに、過剰な免疫反応を抑えて炎症を制御し動脈硬化の進展を防ぐ。

③ サルコペニアを防ぐ
加齢に伴う筋肉の衰えには炎症が関わっており、腸内細菌が骨格筋のサイズや構成や加齢に伴う機能に影響を与えることが明らかになってきた(腸筋相関)。また、短鎖脂肪酸が粘液の分泌を増しタイトジャンクション(細胞接着装置)を強化することで、腸粘膜のバリア機能を亢進し、炎症物質であるリポ多糖類(LPS)の侵入を防ぐことで、IL-6などの炎症性サイトカインによる筋肉のダメージを防ぐ。

④ 骨粗鬆症を防ぐ
骨は、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成により、常に新しく作り替えられている。短鎖脂肪酸は骨吸収を促進、骨芽細胞を活性化、骨形成を活性化することで骨粗鬆症の予防に寄与する。

⑤ 認知症を防ぐ
短鎖脂肪酸は血液脳関門を通過し、アルツハイマー病の原因になる脳内のアミロイドβを減ら作用があることが報告されている。また、記憶に関する遺伝子発現を活性化する。

➅ がんを防ぐ
酪酸は腸上皮細胞のエネルギー源になり、腸のバリア機能を高め、迷走神経に作用して蠕動を亢進させる。また、酪酸は腫瘍細胞に蓄積し、腫瘍細胞の遺伝子発現を制御する。加えてがん細胞の増殖を抑えてアポトーシス(制御された細胞死)を促進させる。

食物繊維摂取によるリスク軽減効果を検討したところ、胃がん、大腸がん、乳がん、子宮内膜がん、膵がんに強いエビデンスが認められ、食道がん、卵巣がん、腎細胞がんに限局的なエビデンスが認められた。

⑦ 寿命を延ばす
食物繊維最大摂取群は最低摂取群と比較して、全死因死亡が15%、心筋梗塞などの冠状動脈性心疾患が31%、がん死亡が13%低かった。食物繊維の1日摂取量は25-29gで効果が最大になることが明らかになった。

● 注意!
近年、糖質制限が注目されていますが、炭水化物摂取の制限は食物繊維摂取の低下につながり注意が必要です。また、過敏性腸症候群(IBS)や小腸内細菌異常増殖症(SIBO)の患者は、食物繊維摂取により、膨満感、腹痛、便通異常などの症状が悪化する恐れがあり注意が必要です。

アンチエイジングのためには、腹部症状に気を付けながら、食物繊維の1日の摂取目標量、女性18 g以上、男性21 g以上(ともに18~64歳の場合)を摂ることをお勧めします。また、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維はバランスよくとることが大切で、1:2が良いとされています。

参考文献:
1) 日本抗加齢医学会会誌2024:4
2) Raynoilds A. et.al. Lancet 2019:393
3) 厚生労働省e-ヘルスネット

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久住静代(くすみしずよ)プロフィール:
東京の赤坂おだやかクリニック名誉院長。抗加齢医学の専門医として、人生100年時代、いかに老化のスピードを遅くして、生涯、健康に自力で心豊かに生きるかという課題に取り組んでいます。

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