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内科医のよもやま話(11)「五十肩(肩関節周囲炎)の治療」/久住静代

肩関節周囲炎は年齢に伴う退行性変化であり、明らかな外傷がなく肩の痛みと可動域制限(運動制限)を認める疾患です。一般的には「四十肩」や「五十肩」と呼ばれています。
関節を構成する骨、軟骨、靱帯や腱などが老化し、肩関節の周囲に炎症が起きることが主な原因と考えられています。発症の平均年齢は50代で、女性、非利き手側に多く、特に糖尿病の患者では5倍のリスクがあるといわれています。可動域制限を全方向に認めるのが特徴で、夜間痛をしばしば伴います。

●関節周囲炎の病期と治療
炎症期、拘縮期、回復期の3つの病期に分けられます。多くが2年以内に自然に症状がなくなると考えられていましたが、半数に疼痛や可動域制限が残ると報告されています。

炎症期では、薬物療法や注射療法による炎症・疼痛のコントロール、拘縮期や回復期では、保存療法(理学療法、リハビリ)が中心となります。数か月の保存療法が無効な場合は、外科的な処置が必要となります。一方、外来初診時等に、超音波診断装置により診断が可能になった肩腱板断裂*(文末に説明)を見落とさないことが重要です。

1) 注射療法
① 関節内へのステロイド注射、ヒアルロン酸注射
肩関節の中にステロイドやヒアルロン酸を注射し、関節包の動きを滑らかにして痛みを抑えます。
関節内のステロイド注射は短期の疼痛緩和に有効です。

② ハイドロリリース
超音波ガイド下に末梢神経周囲や筋組織間を剥離するように薬液を注入し、疼痛の改善を図る治療
法です。神経のハイドロリリースによる関節可動域の増加がみられ、理学療法との相乗効果も期待されています。海外ではハイドロダイセクションと呼ばれています。

2) 運動療法(理学療法)
夜間痛や安静時に痛みがある場合は、肩関節への可動域エクササイズは避けて、肩甲胸郭関節の運動や脊柱起立筋のリラクゼーション、骨盤運動などを行います。また就寝時やデスクワーク中のポジショニング指導を行います。

3) 手術療法
手術療法は、注射療法や運動療法などの保存的治療を数か月行っても、全方向に重度の可動域制限があるような症例が対象になります。

近年、五十肩の新しい治療法として、鏡視下関節授動術(ACR)に代わって、非観血的肩関節授動術(サイレントマニュピレーション、SM)が開発されました。SMとは、肩関節の知覚と運動にかかわる主要な神経に対して、超音波ガイドによる神経ブロックを行い、まず肩を動かしても痛みのない状態を作ります。その後に、肥厚短縮した肩関節包を徒手的に剥がし、肩の動きを劇的に改善する治療法です。
SMは比較的簡便で3つのメリットがあります。
・日帰りで治療できる。
・重症度によるものの、翌日ないし数日後には安静時痛や運動時痛の軽減が得られる。
・費用が安い。

4) 運動器カテーテル治療(血管内治療)
カテーテルを用いて、炎症に伴い生じる新生血管を塞栓して疼痛の軽減を図る処置です。新生血
管周囲に出現する神経線維が疼痛の原因になるため治療効果が期待できます。

*肩腱板断裂
下図のように、いわゆる肩のスジが切れた状態です。
腱板断裂の背景には、腱板が骨と骨(肩峰と上腕骨頭)にはさまれているという解剖学的関係と、腱板の老化があり、40歳以上の男性(男62%、女38%)、右肩に好発します。発症年齢のピークは60代です。肩の運動障害・運動痛・夜間痛を訴えます。運動痛はありますが、多くの患者さんは肩の挙上は可能です。
五十肩と違うところは、拘縮、すなわち関節の動きが固くなることが少ないことです。 他には、挙上するときに力が入らない、挙上するときに肩の前上面でジョリジョリという軋轢音がするという訴えもあります。

参考資料
1) 日本抗加齢医学会会誌2025:2
2) 公益社団法人 日本整形外科学会
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/frozen_shoulder.html
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久住静代(くすみしずよ)プロフィール:
東京の赤坂おだやかクリニック名誉院長。抗加齢医学の専門医として、人生100年時代、いかに老化のスピードを遅くして、生涯、健康に自力で心豊かに生きるかという課題に取り組んでいます。

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