内科医のよもやま話(12)「100年使える眼」/久住静代
=視覚、聴覚、嗅覚、味覚などの感覚機能は加齢とともに衰えていきますが、感覚器の老化が健康寿命に及ぼす影響は予想以上に深刻といえます。特に、人は外界からの情報の80%以上を眼から取り入れており、若いころの見え方(良好な視機能)を維持することが非常に重要です。
今回は、人生100年時代に視力と目の健康を保つための取り組みについて考えてみます。
目の寿命は、65-70歳で平均寿命よりもおよそ20年短いとされています。2021年に日本眼科啓発会議は、加齢に伴って眼機能が低下した状態を「アイフレイル」とし、高度な眼機能障害に至る眼の病気が40-50歳代から徐々に進行することから早期のアイフレイルの発見を呼びかけています。
図1.アイフレイルの自己チェック(参考資料2)より)
チェックが0:あなたの目は今のところ健康です。変化を感じたら再度チェックして下さい。
チェックが1:目の健康に懸念はありますが、直ちに問題が起こるわけではありません。
チェックが2以上:アイフレイルかも知れません。一度、眼科専門医にご相談下さい。
図2.アイフレイル概念図(参考資料1)より筆者改変)
図3.アイフレイル原因となる疾患(参考資料1)より)
アイフレイルの原因となる主な疾患は以下のとおりです。
1) 老眼 加齢とともに目の調節力が低下した状態です。老眼鏡やコンタクトレンズで矯正することが必要です。
2) ドライアイ 涙が角膜の表面を充分に潤すことができない状態です。涙の役割を果たす目薬を点眼しますが、効果が不十分な場合には、手術を検討します。
3) 白内障 水晶体が濁ってくる病気で、視力が低下したり、かすんで見えたり、眩しく感じたりします。濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを移植して視力を回復します。近年、多焦点眼内レンズもあります。
4) 糖尿病性網膜症 高血糖により網膜の毛細血管が障害され、黄斑浮腫、網膜剥離、血管新生緑内障など高度な視機能低下につながります。抗VEGF薬の硝子体内注射や硝子体手術などが必要になることがあります。
5) 加齢黄斑変性 遺伝やライフスタイルの欧米化により黄斑部に新生血管、委縮が生じます。視機能に重要な黄斑が障害され視力低下、中心暗点、変視症などを伴います。新生血管に対しては抗VEGF薬の硝子体内注射による治療が行われます。
6) 緑内障 網膜で受け取った光刺激を脳に伝える視神経細胞が障害される疾患です。進行すると視野が欠けてきます。眼圧を下げる治療が必要で、点眼、レーザー、手術などを行います。
アイフレイルの早期発見・早期介入により高度な視機能障害に至るのを防ぐことで、健康で心豊かな人生100年時代を送ることのできる「目」を作ることができるのではないでしょうか。
参考資料:
1) 日本抗加齢医学会会誌2025:4
2) 日本眼科啓発会議 アイフレイル | 日本眼科啓発会議 アイフレイル啓発 公式サイト
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久住静代(くすみしずよ)プロフィール
抗加齢医学専門医。人生100年時代、生涯自立して健康で心豊かに生きるために、いかに老化のスピードを遅くするかという課題に取り組んでいます。