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日本人会会長からの新年のご挨拶(片川喜代治)

皆さま、あけましておめでとうございます。
いよいよ本年は東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されます。日本にとって、「未来をつかむ(discover tomorrow)」ターニングポイントとなることを願っています。会員の皆様の周辺でも、日本に関する話題が何かと増えると思いますが、このスポーツの祭典を最大限に盛り上げるべく支援していこうではありませんか。

それはさておき、年末から、日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告が日本を脱出し中東レバノンに到着したという映画のような衝撃的ニュースが世界中を駆け巡りました。

かつて、経営と財務危機に瀕していた日産に巨額の資金投入を行い、短期間で立て直しを果たして、フォーチュン誌が、「アメリカ国外にいる10人の最強の事業家の一人」と称したゴーン氏が、突然逮捕された時の容疑が、年収の過少申告でした。その後、業務上横領すなわち、特別背任罪で追起訴されました。同氏の年収は、2016年にルノー・日産・三菱自動車の3社合計額が30億円、2017年は三菱自動車の会長職を辞任して2社合計19億1200万円。逮捕の容疑である申告を逃れた額が5年間で50億円。これだけの収入を得ながらさらに「もっと、もっと」と欲望が膨張する人間の欲というか性という側面から、本事件を見てみたいと思います。

ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンという行動経済学者は、「長続きしない幸せばかりを追い求めている哀れな人間の姿」を、「フォーカシング・イリュージョン」という言葉で表しています。すなわち、仕事によって得られる金・モノ・名誉などは、短期的幸せの象徴だというわけです。短期的幸せは、もともと長続きしないように人間の心はできているというのです。私たちの脳は欲深くできているので金・モノ・地位を得られるとその時は嬉しくてもすぐに、もっと欲しいと思うようになるので、幸せが長続きしないというわけです。

「敷居を跨げば7人の敵がいる」と、昔から言われていますが、人はそういう戦いを経て、金・モノ・名誉や地位を得るわけで、一つの戦いの後には すぐ次の戦いに挑まねばならないので、幸せは一時的になってしまい「キリがない」ものとなります。そのような人間の性を次のように言い当てたのが哲学者ショーペンハウアーです。

「富は海の水に似ている。飲めば飲むほど、のどが渇く」
飽くことなく「富」を求めて生きてこられた感のあるゴーン被告は、レバノンに逃亡して、幸せの根幹をなすところの本当の心の「自由」や「安心」を得たのでしょうか。そうは全く思えないと思うのは、私だけでしょうか。

翻って、会員の皆様におかれましては、今幸せでしょうか。あなたにとって、幸せとはどのようなものでしょうか。そして、あなたが思う幸せに近づくためには、どうしたら良いと思いますか。ゴーン騒動が今後、どのように進展・反転していくのか定かではありませんが、これらのことを、考えるうえで、重要なヒントを与えてくれているのがこの事件であり、本当の幸せを考える良い機会ではないかと思い、皆様と共有させていただきました。

日本人会が、会員の相互扶助と親睦を目指して62年前に設立されたことはご承知の通りです。この相互扶助とは、自分が他人から与えられるものは、自分が他人に施したものの裏返しであるという考えに基づいています。それは、まさに会員の皆様一人一人に、楽しく安心で幸せな生活を分かち合って欲しいという理念でもあります。

皆様とともに今年一年、「幸せ」をキーワードに頑張っていく所存です。

最後になりましたが、この一年の皆様とそれを支えるご家族のご健康を祈念して、年頭の挨拶とさせていただきます。

令和2年1月吉日
在仏日本人会会長 片川喜代治