内科医のよもやま話(1)「男性更年期障害」/ 久住静代(くすみしずよ)内科医
男性更年期障害(LOH:late-onset hypogonadism )
11月19日は、国際男性デー(IMD:International Men’s Day)であり、IMDの6つの柱の1つは、「男性の健康と社会的、感情的、物理的および精神的な幸福に焦点を当てること」とある。
今後、男性の健康意識の高まりが期待される。
一方、企業にとっては、「プレゼンティズム」、すなわち、出社はしているが心身の健康に問題があり仕事に手が付かない、仕事に身が入らない状態が課題視されている。その原因の一つとして、男性更年期障害(LOH: late-onset hypogonadism)がある。LOHは、中高年男性の約1割が苦しんでいると言われ、40歳以上の日本人男性の6人に1人が体験すると言われるほど身近なものになっている。
LOHとは、「染色体異常、遺伝子異常、あるいは精巣の傷害、腫瘍、機能異常、および中枢神経系などの疾患に起因するものではなく、主として加齢あるいはストレスの伴うテストステロン値の低下に伴う症候群」である。即ち加齢現象だけでなく中高年男性のストレスによる性腺機能低下も含まれる。
◆ LOHを疑う症状
① 精神症状:抑うつ、不安、疲労感など
② 身体症状:睡眠障害、記憶力や集中力低下、肉体的疲労感など
③ 性機能関連症状:性欲低下、勃起不全 (ED:: Erectile Dysfunction )など
④ その他:体毛消失、肥満(内臓脂肪型)など
◆ 判定:AMSスコア問診票(Aging Males’ Symptoms)
判定①:
合計点により、17~26点(症状なし)、27~36点(軽度)、37~49点(中等度)、50点以上(重度)と認められる。ただし、スコアの合計点とテストステロン値は相関しない。
判定②:項目10, 15, 16, 17のselective scoreの合計10点以上が有用であるとの報告もある。
◆ 診断:血中テストステロン測定と値
血中濃度が高くなる午前7時~11時の空腹時に測定する。異なる2日の測定も推奨されている。
LOHの診断基準のガイドラインは各国様々あるが、日本における最新のガイドライン(参考文献2))では、フリーテストステロンのカットオフ値は7.5pg/mLとしている。
これはLOH世代に近い30-40歳台のmean-2SDに相当する。
◆ 治療
① テストステロン補充療法
・ テストステロンエナント酸エステル(エナルモンデポー)筋肉内注射
通常125~250mgを2~4週間ごとに筋肉内注射する。
禁忌は、挙児希望、男性乳がん。
副作用として、多血症や精巣萎縮が報告されている。前立腺肥大の悪化や前立腺がんリスクに対しては安全性が報告されているが、男性ホルモン補充療法中には定期的に前立腺の検診やPSA検査(前立腺がんマーカー)を受けることが勧められている。
・ 男性ホルモンクリーム(グローミン:第1類薬頻)
テストステロンを経皮的に補充する軟膏製剤。
1回に2cm程度(テストステロン3mg相当)をチューブから出し、陰嚢や顎下部の皮膚に1日1~2回塗布。
② 漢方薬や軽い安定剤の処方、プラセンタ治療
・ 漢方薬
「補中益気湯」や「十全大補湯」などは、テストステロンを増やす効果が期待でき、保険適応可。
・ プラセンタ注射
更年期障害に対して効果が期待されているプラセンタを2週間に1回程度のペースで筋肉注射。
女性の更年期障害には保険適応可だが、男性更年期障害は保険適応外で自費診療。
③ サプリメント
性腺機能低下症の症状である勃起能、生殖機能の改善に有用とされているが、テストステロンを増加させるサプリメントは未だ登録されていない。
◆◆ 追記
アマゾン原住民のシマネ族でテストステロンを刻々と唾液で測定したデータがある。(参考文献3))
狩りにでた男たちのテストステロンは次第に高まり、見事に獲物を確保するとテストステロンは最高に達する。獲物を持ち帰り家族たちに分け与えると、家族からの感謝のまなざしでテストステロンはまた高まる。しかし、獲物の確保に失敗するとテストステロンは落下し、家族の冷ややかなまなざしはさらに追い打ちをかける。
男性の役割は獲物を確保することであり、現代社会では仕事を達成する、仕事の責任を果たし社会に貢献していることがエストステロン分泌を促進する。
逆にこの役割が果たせないことが男性更年期障害の原因にもなると言える。
男性年期障害の根本治療は、いかに自分を表現できる場をつくり続けるかということかも知れない。
参考文献:
1)抗加齢医学会誌2023; 06
2)男性の性腺機能低下症 ガイドライン 2022; 男性の性腺機能低下症ガイドライン作成委員(日本内分泌学会、日本メンズヘルス医学会)
3)Trumble BC, Smith EA, O’Connor KA, et al: Successful hunting increases testosterone and cortisole in a subsistence population. Proc.Biol.Sci. 2013; 281; 20132876
治療を希望される方は、専門医にご相談下さい。
赤坂おだやかクリニック名誉院長 久住静代
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久住静代(くすみしずよ)プロフィール:
東京の赤坂おだやかクリニック名誉院長。抗加齢医学の専門医として、人生100年時代、いかに老化のスピードを遅くして、生涯、健康に自力で心豊かに生きるかという課題に取り組んでいます。