1. HOME
  2. ブログ
  3. 新年のご挨拶 片川喜代治 日本人会会長

新年のご挨拶 片川喜代治 日本人会会長

新年のご挨拶

皆さま、あけましておめでとうございます。
昨年7月から開催されたジャポニスム2018も、残すところあと2か月余となりました。これほど多彩な日本文化に関するイベントを次から次へと見ることが出来たことに、心から感謝しています。と同時に、日本人にとって「美しさとは何だろう」という私たちの持つ美意識について、フランス人とこんなに話し合ったのも初めてでした。
私は、日本人の自然との付き合い方について、フランス人と話すとき、夏目漱石の言葉をよく引用しています。彼は1900年に、英国に留学します。丁度、パリ万博が開かれていて、これを見学しています。2年ほど英文学を勉強後、帰国して、帝大で英文学の講義をしていました。その講義録をまとめた「文学論」という書物があります。その中で、こういう一節があります。「かってかの地にありし頃、雪見に人を誘いて笑いを招きしことあり、月は哀れ深いものだと説いて驚かれたるおりもあり」。私たち日本人には、雪見も月見も、普通のことで、何も不思議なことではありません。しかし、かの地ロンドンでは、なんてことを言うのかと、笑われ驚かれたというわけです。

フランス人に、日本では外出せずに、家の中から雪を眺めることができる雪見障子というものがあるというと、例外なしに驚かれますが、説明すると、ほとんどの人が「それは素晴らしい」と言います。そして、月見の習慣を、こんな風に話します。
“十五夜の満月には、縁側に美しい月を眺められる月見台を置き、月見団子や、果物などのお供え物を飾って家族みんなで月を楽し
むのが、日本人の古来からの楽しみ方。しかも、満月を過ぎると次第に月が欠けて小さくなっていくのに合わせて、月の出が少しず
つ遅れていくのも面白いと、月の形ごとに呼び名を付けた。十五夜の満月の次の日に、ゆっくりと姿を現す月は、十六夜月(いざよい)。その翌日の月は、今か今かと立ちながら待つうちに出てくる月ということで、立待月と呼び、十八夜の月の出は、立つことに疲れて、座してその出を待ことつから居待月、十九夜の月は寝待月。満月という完ぺきな状態でなく、その後の欠けていく月に、優しい眼差しを注ぐ日本人特有の美意識がそこにある” と。

ついでに、京都に行く機会があれば、桂の離宮で屋根なしで床だけの月見台が見れますよと、付け加えます。さらには、春の花見も、秋の紅葉狩りも、日本人の美意識の表れで、万葉の時代からの歌や、絵を例に挙げて話します。例えば春夏秋冬を一枚の屏風に描く四季絵ですが、こちらの人には一枚の屏風の中で時が移っているという感覚が、なかなか理解いただけない。

時間とともに移っていく自然を愛でる日本人の美意識は、満月から時の流れの中で形を変えていく月をいとおしむ心に明確に表れています。ジャポニスムは、フランス人と美意識について様々な形で、話し合える機会を提供してくれ、同時に日本文化のすばらしさを再認識もさせてくれました。

今年は、5月1日改元という大きな節目の年となります。

今年の干支は、己亥。60年に一度の組み合わせとなります。60年前の己亥の年は1959年。皇太子殿下と美智子様がご成婚されました。その皇太子殿下が60年後の己亥の今年、天皇陛下を退位され、新時代の幕開けとなります。「己」は「おのれ」とも読めます。「亥」が表す「核」というのは「大事なこと」を意味します。己の力を信じて、自分にとって大事なことに思い切って挑戦しては如何でしょうか。

己亥の年男の私も、皆さまと一緒に新時代に適応した日本人会を目指して、挑戦を続けて参ります。
この一年の皆様のご健勝とご多幸を心よりお祈り申し上げます。

平成31年1月吉日
片川 喜代治
在仏日本人会会長