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内科医よもやま話(6)「湿潤療法と栄養療法」/ 伊藤欣朗(いとうきんろう)内科医

1,私のこと
研修終了後、8年間ほど血液内科医として勤務しました。その後17年間、広島市中区で内科開業医をしています。
クリニックは住宅街にある古い木造(+コンクリ)です。祖父が昭和34年に建てました。外見も仕事内容もいわゆる昔ながらの「町医者」ということばがピッタリしています。時間をぬって、在宅診療も行っています。

開業医になってから私が取り組んでいる「創傷の湿潤療法」と「栄養療法」について紹介したいと思います。

2.創傷の湿潤療法
基本原則は「傷を消毒しない」「乾かさない」「ガーゼをあてない」です。

擦り傷、外傷、熱傷、褥瘡(床ずれ)などに大変有用で、在宅医療にも欠かせない知識となっています。慣れれば誰にでも取り組み易い、すばらしい方法です。

「創傷の湿潤療法}は2005年頃、形成外科医・夏井睦が発明しました。大げさと思われるでしょうけれども、私はノーベル医学賞に値すると思っています。なにしろ、抜群に速く、痛くなく治ります。コストも安く、通院頻度も少なくてすみます。夏井医師の発表後、かなり時間がたっており、一般にも大分普及していますので、すでにご存じの方もおられると思います。熱傷などで植皮を勧められた患者さんが10人程おられましたが、この方法で全員治癒しました。

少し残念ですが日本の医療機関でもしっかりと「湿潤療法」に取り組まれている医療機関は実はそれほど多くありません。ケガや熱傷などは、突然身に降りかかることですので、あらかじめ情報収集しておくことをお勧めいたします。創傷の状態によりますが、慣れれば誰にでも取り組めます。しかし、最初はよく理解している医療者の指導を受けてください。(自己流で、間違った方法で治療されている方が少なくありません。)

3.「栄養医学」、「栄養療法」
要約すると、①低糖質・高蛋白食 ②不足栄養素の補充(タンパク質、鉄、亜鉛、マグネシウム、ビタミンB群、ビタミンDなど)です。

「現代日本人に栄養失調はない」と思っていましたが、それは誤りであると知りました。

まず最初に、いわゆるPFCバランス(蛋白、脂質、炭水化物)を再考する必要があると考えています。簡潔に言うと、「糖質過剰摂取が病気をおこしている」と考えられます。糖質摂取制限による花粉症の改善は有名です。糖質制限による体重減少には、脂質プロフィールの改善、血糖値の低下、血圧低下を伴います。

不足栄養素の代表としては、生理のある年代の女性の鉄不足があります。(献血によって貧血になっている方も見受けられます。)例を挙げますと、鉄不足による不安感の増大、パニック障害、うつ(産後うつが典型的)、不妊、全身倦怠感、むずむず脚、コラーゲン蛋白などの合成不良、成長期の起立性調節障害など。注意が必要な点は、ヘモグロビン値が正常であっても、つまり病院で貧血と診断されなくても、鉄不足が存在する点です。近年一般に、「隠れ鉄不足」などと呼ばれています。フェリチンの値が100程度を目標に鉄の内服を継続します。

50代半ばまでの日本人女性には、鉄の補給が必要なことが多いです。この点は、欧米白人と大きく異なっています。欧米人に鉄不足が少ない理由は、欧米白人は肉の摂取量が日本人の3倍程度あること、国策で小麦に鉄が添加されていること、などが理由であると考えられています。

2023年、慈恵医科大学が「98%の日本人にはビタミンD不足がある」と研究結果を発表し、話題になりました。ビタミンD欠乏は、骨粗しょう症の原因となるのみならず、免疫力低下による発癌の一因、感染症にかかりやすくなる一因、アレルギー疾患になりやすくなる一因、などと考えられるようになっています。緯度が高く、昔からくる病や骨軟化症に苦しんできた欧州の高緯度地域では、歴史的にもビタミンDの重要性が認識され、日光浴が盛んであると聞いています。

江戸時代末期に来日した英国人医師が、江戸の陽光の良さとくる病患者の少なさとに驚き、両者を関連付けた論文を報告したそうです。しかしながら、現在では日本人もビタミンD不足状況になっています。紫外線対策のしすぎも一因でしょう。欧米のクリニックでは、ビタミンDの測定をプライマリケア医が行うことが多いと聞いています。フランスで出産された方に、妊娠中の健診で何度もビタミンDの値をチェックされた、と聞きました。現在では日本でも25-OH-vitaminDが保険で測定できるようになりました。保険病名の制約はありますが。

栄養療法による改善例を目にしたことがなければ、信じがたいことだと思いますが、この10年余り、患者さんと栄養療法に取り組みながら、自信を深めているところです。栄養療法は、糖尿病、高血圧、高脂血症、精神疾患、アレルギー疾患、皮膚疾患など多くの疾患に有用です。患者自身で取り組む治療法なので、医療費も最少ですみます。 米国には「Doctor Yourself」という考え方があります。新しい医学は「自分で病気を治す」という方向になると思います。

栄養医学はマイナーな考え方なので、栄養医学が普及するには長い年月を要するでしょう。「広島を栄養医学のメッカに!」と願って活動しています。

湿潤療法の参考資料
①夏井睦先生のホームページ「新しい創傷治療」 wound-treatment.jp)
キズ・ヤケドは消毒してはいけない―痛くない-早く治る-「うるおい治療」のすすめ-夏井-睦/
栄養療法の参考文献
①主食を抜けば糖尿病は良くなる 江部 康二 東洋経済新報社
②認知症にならない最強の食事術 江部 康二 宝島社
③すべての不調は自分で治せる  藤川 徳美 方丈社
④親子ではじめる!天才ごはん  藤川 徳美 方丈者
⑤ココロの不調回復 食べてうつぬけ 奥平智之 主婦の友社
⑥ORTHOMOLECULAR MEDICINE FOR EVERYONE Abram Hoffer, MD, PhD, and Andrew W.Saul, PhD Basic Health PUBLICATIONS.INC
⑦広島人のビタミンDレベル https://itonaika.in/2630

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伊藤欣朗(いとうきんろう)プロフィール
広島市の伊藤内科医院 院長。最近の知識を常に求め、内科全般(血液、循環器、呼吸器、消化器、アレルギー等)に加え、創傷の湿潤療法、在宅医療、東洋医療等を行っています。

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