会報 / 最新号コラムより
フランス歴史散歩道 / 沈没船(2)/ ミッシェル・ブリュノー / n°286
E パリを離れて田舎に移住したお友だちの話をもう少し聞かせてください。
M 退職後、家でテレビやパソコンの前に1日中ずっと座って過ごす日々を送りたくなかったので、彼は田舎に移住しました。
E でも退職後、新しい事を始めるには遅すぎませんか。
M 最近は、60~65歳になってもまだまだ元気です。そして何らかの活動をすることで健康を保てます。
E 小さい村に移住したのですか。
M いいえ、村から離れた森の近くの家🏡を見つけました。
E 庭付きですか。
M 耕されていない土地が付いています。
E 土地を耕すのは大変でしょう。
M 最初は大変でした。彼はくだものの木も植えました。
E くだものが収穫出来る様になるまで時間が掛かったでしょう。
M 3年目にやっと初めてりんご🍎と梅が実り、収穫できました。
E 野菜はどうですか。
M 2年目は200キロ、3年目は300キロ。
E 化学肥料と農薬を使っているのですか。
M いいえ、両方とも一切使っていません。石油(ガソリン)や耕運機も使っていません。
E 農薬は毒ですから使用を避けているのでしょう。それは分かります。でも、どうして化学肥料を使わないのですか。
M 今年の8月4日、レバノンの首都ベイルートで爆発が起き、港が完全に破壊されました。およそ600人の死亡者と6500人以上のけが人が出ました。
E そのニュースは全世界に報道されましたが、化学肥料と何か関係があるのですか。
M あります。港の破壊の原因はよく使われている化学肥料 (nitrate d’ammonium 硝酸アンモニウム) の爆発です。その化学肥料が原因で、世界でこれまでに2000人以上の死亡者と何万人ものけが人が出て、多くの建物も破壊されました。
E 農薬に関しては、安全ルールを守って扱えばいいでしょう。
M いいえ、定量を守れば安全と言えますか。複数の農薬を同時に使う場合、安全ルールを守るのは難しくないですか。
E しかし農薬に関しては、癌を引き起こすケースは少ないでしょう。
M いいえ、農業をしている人の中にないとは言えませんし、農薬を荷造りしたり運んだりする人たちの中で癌を患う人は少なくないのです。そして年々、農業で使う農薬の量が増えています。しかも酷いことに、フランスまたはヨーロッパで使用が禁止されている農薬を、今でもフランス国内で製造しています。
E どうしてですか。
M アフリカ、アジア、南アメリカに売るためです。
E それらの国の安全ルールはヨーロッパほど厳しくないのですね。本当に酷いですね。でもそのお友だちは農薬や化学肥料なしで良い野菜を作れていますか。
M ビニールハウスを使わずに、700から800グラムもある大きいトマト🍅ができました。
E どうしてビニールハウスを使わないのですか。
M ビニールとプラスチックは公害の原因で、今、スペインで大きな問題になっています。
E そうすると、一年中トマトを食べられないでしょう。
M はい、トマトは夏だけです。季節の野菜を食べればいいのです。それが自然です。
E 化学肥料、農薬、ビニール、機械を使わないと収穫量が大幅に減ってしまうでしょう。
M 今のような農業は続けられません。50年前はフランスの人口の20%ぐらいが農業に従事していましたが、今は人口の1%ほどです。そして、多くの人々は町に集ってくるものの、結局仕事がみつからず、多くの失業者が溢れています。何か間違っていると思いませんか?
E そう言えばケベックの歌手の古い歌を思い出します。人間を殺す一番良い方法は、働かせないで、ただお金を与えることです。
La meilleure façon de tuer un homme,
C’est de le payer à ne rien faire. Félix Leclerc*
M それはパリ郊外に住んでいる若者の問題かも知れません。
*Félix Leclerc フェリックス・ルクレルク(1914.8.2〜1988.8.8)フランス系カナダ人のシンガーソングライター、詩人、演出家、ラジオ・テレビの司会者
(この曲は下記のリンクで)
https://www.youtube.com/watch?v=g7kVFRVr_B0