会報 / 最新号コラムより

舞台裏より愛をこめてvol.19 / 小笠原尚子 / n°310

2024.11.16

人さまとのご縁は大変有り難く、方々でのご縁を紡ぎながら、人生、生活が成り立っているように感じております。パリに於いて、日本では考えられない難題に巻き込まれながらも、一方で有り難いご縁を様々頂戴して参りました。
10年前、下見で単独パリ入り時のこと、ギャラリー・ラファイエットで友人との待ち合わせをしていると、見知らぬマダムから話しかけられまして、なぜかゆくゆく私どもの住まいの話になり、どうやらそのマダム、パリ16区にお住まいのご様子で。「あなた、パリに住むならトロカデロよ」としきりに仰るものですから、後日トロカデロ近辺をウロウロするも、全てが高価でおよそ手の届かぬ物件ばかり、おまけに賃貸契約したくも仏語ゼロレベル。
その３ヶ月後、試験のため子供達とのパリ滞在時、当時の仏語教室先生へ住まいについてご相談すると「今朝たまたま昔の生徒に出くわしてね、彼女今は不動産仲介してるみたいで、日本人だし頼ってみては」とのお言葉。これ幸いと、物件数件その方とめぐるも空振り、帰国間際に慌てて“唾をつけておいた”物件も、私どもが保証人も見つけられない外国人ということで結局フランス人の手に渡ってしまいました。何もかも上手くいかず踏んだり蹴ったりの中、賃貸物件サイトにてたまたま見つけたアパルトマンがシャイヨーエリアで、家賃は倹約すれば何とか捻出出来る額とあり、すぐに例の仲介担当マダムへ連絡を入れました。銀行口座開設や、書類ごとなどはひぃひぃものでしたが、内見もせず、子供たちと寝袋持参で向かった伽藍堂アパルトマンは何とトロカデロ広場から徒歩3分の立地。エッフェル塔を望むその広場は、下見時指を加えながら何度もバスで横切った場所でございました。大げさかもしれませんが、あのマダムと、仏語先生、仲介マダムとのご縁なくしては叶わなかった奇跡と感じました。
パリ移住を果たして以降、度あるごとに広場へ行けばそこはいつも観光客で溢れ、皆さんの視線の先にはパリの象徴であるエッフェル塔。この塔一つの存在がどれだけ世界中の人々の心を魅了し、感動や癒しを与えているかと思うと、この塔を築いた“エッフェルさん”にただただ感謝、モンマリとのいざこざにうな垂れた時も、この塔の威風堂々ながら繊細な曲線と温かな灯りにどんなに励まされたことか！いつも身近に感じているエッフェル塔、コロナ禍のわんこ散歩時には毎度エッフェルさんの塔にご挨拶をしたものでした。
苦難を乗り越え塔を築かれたエッフェルさんの足元には及ばずながらも、おひとりでも多くの方の笑顔拝見したく、日本の文化普及を続け、このところは間近に控える狂言公演チラシ配りに精を出しております。
photo：第6回『パリ延年之會』公演チラシ（11月17日）

ある日、日本イベントの傍らで行き交う方へチラシをお渡ししておりましたら、美しいマダムが「お久しぶりです」とお声がけ下さり…何とその方はあの“天才建築家ギュスターヴ・エッフェル氏”から続くエッフェル家五代目の奥さま、イエットマンエッフェル由紀子さんでした。昨年の公演時にご来場下さいました際は、わたくしのような者が厚かましくお話など…と、ご挨拶までに留まっておりましたが、今回の再会を機に由紀子さんと直接のやりとりが叶い、“ギュスターヴ・エッフェル氏に対する感謝の念”をお伝えすることが出来、何ともありがたい奇跡でございました。（更に加えるならば、由紀子さんとのご縁は日本人会美人秘書さま＆美容院美人オーナーさまによるもの！）由紀子さんはエッフェル家の一員として、“ギュスターヴ・エッフェル氏の功績伝える日本人”としてのお役を担っておられ、ネット上でも様々な手記や記事を拝見することが出来ます。後世へ何かを伝えてゆく一連の作業が、わたくし自身の思いと重なり、誠に勝手ながらも親近感を覚えたりなど…連なるご縁に感謝しつつ、本日はこの辺で。
平和への祈りを込めて。

小笠原尚子（おがさわらたかこ）プロフィール：
“やんちゃ狂言師の裏方古女房” 東京生まれ。神戸→名古屋→横浜→佐渡ヶ島育ち。故八世野村万蔵主宰“わざおぎ塾”にて学生時代に演劇を勉強中、狂言師小笠原匡と出逢い1996年に結婚、伝統芸能の世界に入る。その後、大阪生活を経て2014年よりパリ在住。現在、パリで狂言普及活動の傍ら、自らは役者業を再開⁈（このエッセイでは、日仏文化体験を通し、狂言師一家の四半世紀を振り返ります）

舞台裏より愛をこめてvol.19 / 小笠原尚子 / n°310

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