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会報 / 最新号コラムより

舞台裏より愛をこめてvol.9 / 小笠原尚子 / n°299

新たな年を迎え、皆様いかがお過ごしでいらっしゃいましょうか。当コラムをお読み下さっておりますこと深く感謝致しますと共に、この一年、皆様方の益々なるご多幸とご健康を心よりお祈り申し上げます。こちらのコラムでは、わたくしがモンマリの裏方として歩み始めました経緯や体験、フランスとの繋がりなど綴らせて頂いております。本年もどうぞよろしくお付き合いの程賜れましたら幸いでございます。
さて、モンマリより課せられご多分に洩れず最後の最後までにらめっこ状態でした会場300席、果たしてそちらは埋まったのでしょうか…かようなる締めの句で終わりました前回のコラム。「パリで主催公演やるからね」との言霊を飛ばされましたわたくしどもは、オペラガルニエ前でのビラ巻きにとどまることなく、レストランでのチラシ設置、SNSでの発信、友人知人へ直接のアノンス等々…無い知恵を絞りに絞って動けるだけ動いて、伝えるだけ伝えました結果!………惨敗でございました…ちぃとも数字が上がらんのです、はい、的外し、当て外れ、空回り、撃沈、ちーん。だったのでございます。
公演まで一週間を切り3分の2席が空席という驚愕愕然、悪夢のような状況…事実連日のように、津波、迷子、何故かトイレ、そしてトドメにモンマリからの超恐喝という並々ならぬ悪夢で夜中に目覚めることしばしば。そこで我らが苦悩を、さるお三方様へ恥を忍んでご相談申し上げました。するとお三方様「え?フランスのみなさん、日本の文化お好きですのにその状況とは…」とやや引き気味なご反応。友人からは「“KYÔGEN”が一体何なのか知らない人多いし、パリジャンはそこそこ“ケチ”だから、知らないものにあまりお金出したがらないかも」と慰められ…
ん?あれ⁈フランスではこれまで何度も能楽公演が開催されており、勿論狂言も同じタイミングで上演されていながら“知らない人が多い”とは…そうなのです、都度開催タイトルが“Théâtre NÔ”とされてきた為、ご来場下さいましたお客様は、その時その場で“狂言”をご覧になっていた筈なのですが、鑑賞したものは“能”であった、とのご認識でお帰りになられる。その為“Théâtre NÔ”は通称となっていながら“KYÔGEN”につきましては、なんじゃそりゃ?ということになっていた訳でございます。ここ最近は“Théâtre NÔ et KYÔGEN”と表記して頂けるようになって参りましたが、“KYÔGEN”の認知度はまだまだでして“SAKÉ”“YUZU”“MATCHA”等の足元にも及びません。
はてさて、先程の引き気味でしたお三方、さりとて流石に可哀とお思い下さり、それぞれのコミュニティへお声掛け下さいました。ラストスパートの3日間であれよあれよと言う間にチケットサイトでの数が上がり、ほぼ満席の会場にて二日間の上演が叶いました。

大変ありがたく、ご協力、ご来場下さいました皆様へただただ感謝するばかり。また、QRコードチケット先進国でなかったら、到達出来ない現象でございました。日本での当方アナログシステムでしたらば、チケット発送に追われるか、当日長蛇の列でお客様をお待たせすることになっておりました。本当にありがたい時代でございます。
主催公演終了の晩、お客様のにこやかなお顔を思い起こしながら、晴れてチケットサイト確認作業と悪夢から解放され、至福と共に眠りにつきましたことは言うまでもございません。本日はこの辺で。 平和への祈りを込めて。

小笠原尚子(おがさわらたかこ)プロフィール:
“やんちゃ狂言師の裏方古女房” 東京生まれ。神戸→名古屋→横浜→佐渡ヶ島育ち。故八世野村万蔵主宰“わざおぎ塾”にて学生時代に演劇を勉強中、狂言師小笠原匡と出逢い1996年に結婚、伝統芸能の世界に入る。その後、大阪生活を経て2014年よりパリ在住。現在、パリで狂言普及活動の傍ら、自らは役者業を再開⁈(このエッセイでは、日仏文化体験を通し、狂言師一家の四半世紀を振り返ります)

バックナンバー
舞台裏より愛をこめてvol.1 / 小笠原尚子 / n°290
舞台裏より愛をこめてvol.2 / 小笠原尚子 / n°291
舞台裏より愛をこめてvol.3 / 小笠原尚子 / n°292
舞台裏より愛をこめてvol.4 / 小笠原尚子 / n°293
舞台裏より愛をこめてvol.5 / 小笠原尚子 / n°294
舞台裏より愛をこめてvol.6 / 小笠原尚子 / n°295
舞台裏より愛をこめて番外編 / 小笠原尚子 / n°296
舞台裏より愛をこめてvol.7 / 小笠原尚子 / n°297
舞台裏より愛をこめてvol.8 / 小笠原尚子 / n°298

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