1. HOME
  2. 会報 / 最新号コラムより
  3. 舞台裏より愛をこめてvol.8 / 小笠原尚子 / n°298

会報 / 最新号コラムより

舞台裏より愛をこめてvol.8 / 小笠原尚子 / n°298

モンマリとパートナーシップを結んで以来、わたくしはいつもにらめっこ。 お相手はモンマリ…C’est bien sûr!!! mais … それはもちのロンロン、が、しかし、他にもにらめっこをするあまり、眉間とおでこのシワを深くするものがあるのです。それは時計と…座席表!
私どもは、日本国内にて依頼公演の他にも自主公演を行っておりまして、依頼公演でしたらスケジューリング他全て主催者サイドがご用意下さるので、モンマリ達役者陣は会場へ伺い舞台に立てばよいという流れでございますが、一方自主公演となると会場探しに始まり、交渉、出演者スケジューリング、チケット管理、出演料支払等々、様々な工程が必要となり、実行委員会の存在や会社組織があれば良いものの、当方は昔ながらの“家内工業”に加え“自転車操業”“ファミーユアナロジック”。公演前日まで紙の座席表とのにらめっこを強いられるのです。
パリ暮らしを始めて間も無く、小切手の書き方もわからないような状態でありました2015年に、無謀にもパリでの自主公演を実施、50席を埋めるのにも困難を要しました。それは当然の事、パリに身内も無く、人脈も無く、広報の術もわからず、その折は、コラボ公演ということでご一緒頂きました演奏家の皆さまのご協力で、何とか会場費支払と些少ながらの御礼をお渡し出来ましたが、勿論、モンマリや息子はボランティア、日本での自主公演同様、なかなか黒字公演とは参りませんでした。 そこから4年、今度は「“狂言”二本立ての公演をするぞ」との指令アリ、その名も『パリ延年之會』。日本で続けていた自主公演タイトルの頭に“パリ”を加えたものでした。 通常、企画は先ず大体の実施日を決め、そこから逆算し数年をかけて開催に至るのでしょうが、モンマリの場合は「ここのスケジュールがぽっかり空いているからやろう!」というムチャブリスタイル…「いいかお前たち“言霊”というものがあって、常日頃口にして言っていれば事は実現するものなのだ」と子供たちへ説く隣で「貴方の事(欲望)を実現させる為に、周りの方が協力してくださるから事(欲望)が実現しているのであって、ただ言っているばかりではどうなのでしょう」と、モンマリとの共同生活ですっかり捻くれ根性になってしまったわたくしは、彼の唱える言霊論に対しては断固否を唱えるのでした。
2019年10月“やるぞ”とのご発令でサン=ジェルマンデプレの会場をおさえ、広報するもチケットの売上は伸び悩み、アソシエーションメンバーの協力を得ながらビラ配りも致しました。

その折はパリファッションウィークでしたので、配り甲斐あり宣伝効果大との見込みでしたが、わたくしのような小さなアジア人がビラを配りましても受け取り率は低く“Non merci”と見下ろされる感覚もあり、心折れそうな気分を味わいながら、こんな思いも露知らず、モンマリは日本で舞台に立ち、拍手を頂き、美味しいお酒に舌鼓を打っているのだろうな、と苦々しく思いつつ翌日は和装にてビラ配り続行、受け取り率がグンと上がり、日本文化の興味度を知る上での細やかな喜びを持ち帰りました。さて、ご多分に洩れず最後の最後までにらめっこ状態でした会場300席、果たしてそちらは埋まったのでしょうか…
今回も恨み節になってしまいましたが、続きはまた後日、本日はこの辺で。 平和への祈りを込めて。

小笠原尚子(おがさわらたかこ)プロフィール:
“やんちゃ狂言師の裏方古女房” 東京生まれ。神戸→名古屋→横浜→佐渡ヶ島育ち。故八世野村万蔵主宰“わざおぎ塾”にて学生時代に演劇を勉強中、狂言師小笠原匡と出逢い1996年に結婚、伝統芸能の世界に入る。その後、大阪生活を経て2014年よりパリ在住。現在、パリで狂言普及活動の傍ら、自らは役者業を再開⁈(このエッセイでは、日仏文化体験を通し、狂言師一家の四半世紀を振り返ります)

バックナンバー
舞台裏より愛をこめてvol.1 / 小笠原尚子 / n°290
舞台裏より愛をこめてvol.2 / 小笠原尚子 / n°291
舞台裏より愛をこめてvol.3 / 小笠原尚子 / n°292
舞台裏より愛をこめてvol.4 / 小笠原尚子 / n°293
舞台裏より愛をこめてvol.5 / 小笠原尚子 / n°294
舞台裏より愛をこめてvol.6 / 小笠原尚子 / n°295
舞台裏より愛をこめて番外編 / 小笠原尚子 / n°296
舞台裏より愛をこめてvol.7 / 小笠原尚子 / n°297

最新号コラムより一覧