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舞台裏より愛をこめてvol.12 / 小笠原尚子 / n°303

パリにて、粛々と普及活動をさせて頂いております伝統芸能“KYÔGEN”は、ご神事より派生しました日本最古の演劇といわれております。その能楽(能と狂言の総称)に携わっております中、“演劇の神様の悪戯(イタズラ)”?と感ずる出来事に遭遇すること時折ございまして、突然のそれは、日本であったり、パリであったり…。
“悪戯”では聴こえが悪うございますので、ここは“驚愕のお引き合わせ”と参りましょうか。“演劇の神様による驚愕のお引き合わせ”のうちの一つは、2017年の夏にございました。それはフランスに留まらぬ“演劇界の神様”との再会でございました。
その前に、わたくし事になってしまうのですが…当方9歳の時分、父方実家のある佐渡ヶ島へ移り住むこととなり、中学校三年生までの6年間、自然に囲まれ伸び伸びと暮らしておりました。佐渡ヶ島といえば、現代の能楽を大成したとされる猿楽師(役者)世阿弥が晩年配流された島で、小謡集『金島書』は彼の佐渡への道中や配所の様子を書いたものとのこと。この能楽に所縁ある佐渡ヶ島で、なんと演劇の神様、アリアンヌ•ムヌーシュキンさんと再会したのでした。
初めてお会いしましたのは1996年、パリにて。お会いしたといっても、彼女の中にわたくしの印象が残るはずもなく。一方アリアンヌさんは著名な方、雲の上のご存在としていつもわたくしの中にありました。そのアリアンヌさんと佐渡ヶ島で遭遇しましたのが2017年、毎年開催されておりますお祭でのこと。
前日の薪能上演時、客席にお姿お見掛けしましたが、まさかまさかよく似た方とそのままに、しかし翌日お祭の御招待席にまたも、昨日のマダムがお座りではありませんか!携帯ネットでお顔検索し確信を得たわたくしは、その日来場予定では無かったにも関わらず、たまたま現れた兄へ咄嗟に尋ねました。「あの方もしや太陽劇団の…?」兄はすぐに、知り合いの関係者さまへ確認を取ってくれまして、結果…ドンピシャ、アリアンヌさんご本人でありました。

いやもう本当に奇跡と申しましょうか、わたくし自身、久々の帰省にまさかの遭遇、心臓ばくばくながら終演後ご挨拶の機会を頂戴し、たどたどしい仏語で自己紹介。昨日の薪能に出演していたのが、モンマリと息子であったこと、更に1996年に太陽劇団団員さん方参加の狂言ワークショップをモンマリが担当したことなど、するとアリアンヌさん「あぁ!」と笑顔に。その後もお話しが続き、翌日には実家へお運び下さり、母の立てた抹茶と和菓子に舌鼓、パリでまた会いましょうとなり、帰仏後劇場訪問致しますと今度はナント新作舞台に向け、モンマリへ狂言指導を頼みたいとの光栄なるお話。

その新作タイトルが『金夢島 L’ÎLE D’OR Kanemu-Jima』で、佐渡ヶ島から着想を得た作品とのこと。フランスで上演後、コロナ禍から日本での開催延期となっておりましたが、この秋遂に日本公演が実現するとの嬉しいニュース。コロナ禍にはオンラインで狂言稽古に励んでらした役者の皆さんも、日本への旅公演を楽しみにしておられることでしょう。 “演劇の神様による驚愕のお引き合わせ”誠ありがたしにございました。『金夢島 L’ÎLE D’OR』日本公演のご盛会を願いつつ、本日はこの辺で。
平和への祈りを込めて。

小笠原尚子(おがさわらたかこ)プロフィール:
“やんちゃ狂言師の裏方古女房” 東京生まれ。神戸→名古屋→横浜→佐渡ヶ島育ち。故八世野村万蔵主宰“わざおぎ塾”にて学生時代に演劇を勉強中、狂言師小笠原匡と出逢い1996年に結婚、伝統芸能の世界に入る。その後、大阪生活を経て2014年よりパリ在住。現在、パリで狂言普及活動の傍ら、自らは役者業を再開⁈(このエッセイでは、日仏文化体験を通し、狂言師一家の四半世紀を振り返ります)

バックナンバー
舞台裏より愛をこめてvol.1 / 小笠原尚子 / n°290
舞台裏より愛をこめてvol.2 / 小笠原尚子 / n°291
舞台裏より愛をこめてvol.3 / 小笠原尚子 / n°292
舞台裏より愛をこめてvol.4 / 小笠原尚子 / n°293
舞台裏より愛をこめてvol.5 / 小笠原尚子 / n°294
舞台裏より愛をこめてvol.6 / 小笠原尚子 / n°295
舞台裏より愛をこめて番外編 / 小笠原尚子 / n°296
舞台裏より愛をこめてvol.7 / 小笠原尚子 / n°297
舞台裏より愛をこめてvol.8 / 小笠原尚子 / n°298
舞台裏より愛をこめてvol.9 / 小笠原尚子 / n°299
舞台裏より愛をこめて続・番外編 / 小笠原尚子 / n°300
舞台裏より愛をこめてvol.10 / 小笠原尚子 / n°301
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