会報 / 最新号コラムより
舞台裏より愛をこめてvol.10 / 小笠原尚子 / n°301
最近では大変ありがたいことに、イベント等で出向きました先にてお声掛け頂戴する機会が多くなってまいりました。
「日本人会連載コラム、読ませて頂いてますよ!あれはだいぶ盛って書かれてるんですよね?ご夫婦のご関係がよろしいようで、楽しく読んでいますよ!(笑)」とのお言葉を頂くのです。そして、すかさずお返事申し上げます。「いえいえ、あれはだいぶ“オブラートに包んで”書いているんですよ。所謂ソフト暴露コラムとでも申しましょうか。ぐふふっ」と、お相手のちょっと複雑な表情を拝見しながら微笑み返し。「なかなか爽快に旦那さまのことお書きですけれど、怒られたりはしないのですか?」とも。「ええ、最近だいぶまるくなりましたもので、何と申しましょうか、今だからこそ書ける、過去のザ・封建夫=モンマリ的な?これはちょっと書き過ぎかしら、なんて内容は一応彼に確認をとったりして。今まで却下になった記事は無く、何ならFacebookでコラムをシェアした際“いいね!”マークをつけてくれるんです。ぐふふっ」こんな具合に、皆さまより生のご感想頂きながらのやり取りは、誠、愉快なものでございます。遠くパリの空の下、ご自分の噂をされているなどと思いもよらぬはモンマリばかり。
パリマダムに「私だったら絶対無理だわ」と言わしめる小話はてんこ盛りで所持しているけれど、つい先ごろは何と奇跡がおこりました。それは太陽劇団能楽公演並びに、第参回パリ延年之會出演でのモンマリ来仏時。
眉間に皺を寄せPCを睨むわたくしを横目に、美術館めぐり、と愛してやまぬパリにて日々満喫しておりましたモンマリ、能楽公演期間中は能楽団の皆さまと共に、ヴァンセーヌ近くのお宿にステイしておりました。お舞台後の楽しいお酒の話もぽつぽつと耳に入って参ります中、わたくしはといえば、その後に控える狂言会の券売、各所への連絡と、相変わらずPCとよろしくラストスパート。劇場に繋がるであろうお客さまを取りこぼすなとばかり、5日間西から東へパリ横断、能楽公演ご来場者さまへのチラシ配りに精を出しておりました。
大盛況で終えました5日間の能楽公演翌日からの2日間は、モンマリ主催の狂言公演。こちらは悲しいかな毎回赤字公演ながら、この度何とか3回目を迎え、更に日本から兄弟弟子2名も参戦とあり、尚更席を埋めねばと気が急いておりました。滞在費削減の為、お二方には我が家へ御逗留願い、わたくしは兎に角当日までチケット係、食事は男性陣当人方へお任せしました。
買い出しも和気アイアイ、狭いながらも楽しい我が家、食後公演準備で会場へと殿方出払いました後、自室から出てキッチン流しを覗けば食器の山。公演中は勿論わたくしが洗いましょう、が、公演ひと段落、息子は先輩方お見送りで空港へ、と3人の背中を見届け扉をパタリと閉めました途端、モンマリがしれっとその場を立ち去ろうとしましたものですから、これは堪忍ならぬとお尋ねしました。「この数日間、私はヨーグルトだけを食し、使ったのは小さなスプーン一本のみ、ここに山積みの食器の中で、どれひとつとして私は使っていませんけれども、洗うのはやはり私なんですよね?」最近益々男らしくなったわたくしを見て、モンマリはハッとし「えぇ⁈モ、モチロンお手伝いしますよ‼︎」と。結婚して28年目3月22日の奇跡、モンマリがわたくしの右隣に立ち、食器のすすぎを行っている!モンマリが少し大人になりました!神さま仏さま御先祖さま、ありがとうございます!本日はこの辺で。 平和への祈りを込めて。
小笠原尚子(おがさわらたかこ)プロフィール:
“やんちゃ狂言師の裏方古女房” 東京生まれ。神戸→名古屋→横浜→佐渡ヶ島育ち。故八世野村万蔵主宰“わざおぎ塾”にて学生時代に演劇を勉強中、狂言師小笠原匡と出逢い1996年に結婚、伝統芸能の世界に入る。その後、大阪生活を経て2014年よりパリ在住。現在、パリで狂言普及活動の傍ら、自らは役者業を再開⁈(このエッセイでは、日仏文化体験を通し、狂言師一家の四半世紀を振り返ります)
バックナンバー
舞台裏より愛をこめてvol.1 / 小笠原尚子 / n°290
舞台裏より愛をこめてvol.2 / 小笠原尚子 / n°291
舞台裏より愛をこめてvol.3 / 小笠原尚子 / n°292
舞台裏より愛をこめてvol.4 / 小笠原尚子 / n°293
舞台裏より愛をこめてvol.5 / 小笠原尚子 / n°294
舞台裏より愛をこめてvol.6 / 小笠原尚子 / n°295
舞台裏より愛をこめて番外編 / 小笠原尚子 / n°296
舞台裏より愛をこめてvol.7 / 小笠原尚子 / n°297
舞台裏より愛をこめてvol.8 / 小笠原尚子 / n°298
舞台裏より愛をこめてvol.9 / 小笠原尚子 / n°299
舞台裏より愛をこめて続・番外編 / 小笠原尚子 / n°300