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会報 / 最新号コラムより

舞台裏より愛をこめてvol.16 / 小笠原尚子 / n°307

先頃、第五回パリ延年之會狂言会を終え、今度は日本公演準備のためバタバタと日本へ戻って参りました。なんと今回、パリでの主催公演5回目にして初めて…会場費をチケット収入で賄うことが出来ましたぁぁぁ!(涙)。これまでの赤字公演に漏れず今回も演者2名はボランティア出演でしたが、会場費をカバー出来ましたことはひとつ前進、大変喜ばしいことでございました。
さて、2019年のパリ延年之會主催公演初演の2年前、2017年の丁度今頃は、 KYÔGEN “人間国宝・野村萬師をお迎えして”とのタイトルにて、幸いにもパリ日本文化会館20周年記念特別狂言公演開催の機会を頂いておりました。家内工業公演とは異なり、会館サイドで様々ご準備を頂けるとあって大変ありがたい企画公演でございました。
東京より野村万蔵家一門、並びにお囃子方の皆様がパリ上陸を果たし、二日間に渡り『三番叟』『金岡 大納言』『二人袴』が上演されました。タイトルにもございました我らが師匠、人間国宝・野村萬先生は当時御年87歳ながら、艶やかなる“巨勢金岡(平安時代の絵師)”を熱演され会場のお客様を魅了しました。
連日の舞台をこなされました後、ご帰国まで予備日が一日ございましたので、その日はご休息を兼ねごゆるりと市内ご散策かと思いきや、折角の機会いざヴェルサイユ宮殿へ皆で参ろうということになり、公演にあわせてご来仏中でした社中の皆さま含む総勢10名で宮殿を目指しました。
宮殿前に到着しますと案の定超長蛇の列。想定外のスケジュールとあって入場チケットの予約も出来ず仕舞い、その上5月にしては汗ばむほどの気温、この列に長時間並ぶことは私共にとりましても忍耐を強いられる状況でございました。辺りにお座り頂けるベンチも無く、先生のご体調を考慮しあわや断念か、というところ、傍におりました娘が一言「萬先生、国宝でいらっしゃるのだから、先生だけでも先に入場させて頂いて、涼しいところでお座りになられお待ち頂いては」と…にゃるほど!確かにっ!!ということで、わたくし、入り口のお兄さんのところへそそくさと向かい、携帯電話に保存してありましたデータやら、手元にありましたプログラムなど、ありったけの情報を提示し、今この場に日本から人間国宝のグランアーチストが見えておられ、明日帰国のこの段、タイトスケジュールの中時間を割いて、かくかくしかじか…するとそのお兄さん、列のはるか向こうへ目を向け、何人で来てるの?と、すかさず10人で!と返答、オッケー、みなさんここを通ってお入り下さい、と手招き…Oh là là, Quelle chance !!! オタオタする母親を見兼ねた娘の機転と師のステイタスに肖り最短コースで宮殿の入り口を通過、まさにアーティストをリスペクトして止まないフランスならではの待遇でありました。
その後プチトランを乗り継ぎ各所見物、グラン・カナルも堪能し宮殿へ戻るトラン乗り場へ向かおうとするやいなや、宮殿まで歩こうではないか、と萬先生。パワフルなご発声に驚愕しつつ、途中ソフトクリーム休憩などしながら数キロ先の宮殿とその向こうの駅へ黙々と。更に夕食レストランへ向かうべくアンヴァリッド駅からタクシーでヴィヴィエンヌまでと思いきや、こちらも徒歩でとのこと、グラン・パレ前ではただならぬ空気、見れば就任式へ向かうエマニュエル・マクロン氏が車上で手を振っていたりして。ルーブルなども経由し2km以上の道のりを…ヴェルサイユ宮殿に始まり宴の席まで、歩きに歩き抜き、まさに現役バリバリ舞台に立ち続けなさる師の強靭な足腰をまざまざと見せ付けられた1日でございました。
本日はこの辺で。
平和への祈りを込めて。

Photo : パリ日本文化会館20周年記念特別狂言公演プログラム(2017)

小笠原尚子(おがさわらたかこ)プロフィール:
“やんちゃ狂言師の裏方古女房” 東京生まれ。神戸→名古屋→横浜→佐渡ヶ島育ち。故八世野村万蔵主宰“わざおぎ塾”にて学生時代に演劇を勉強中、狂言師小笠原匡と出逢い1996年に結婚、伝統芸能の世界に入る。その後、大阪生活を経て2014年よりパリ在住。現在、パリで狂言普及活動の傍ら、自らは役者業を再開⁈(このエッセイでは、日仏文化体験を通し、狂言師一家の四半世紀を振り返ります)

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舞台裏より愛をこめてvol.3 / 小笠原尚子 / n°292
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舞台裏より愛をこめてvol.6 / 小笠原尚子 / n°295
舞台裏より愛をこめて番外編 / 小笠原尚子 / n°296
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