会報 / 最新号コラムより

舞台裏より愛をこめてvol.21 / 小笠原尚子 / n°312

2025.03.25

本日は狂言から少し離れ、2018年にございました日仏間での交流、“絆姫人形”につきましてしたためたくお付き合い下さいませ。
2016年のある日、椎井友紀子プロデューサーと映画監督の阪本順治氏よりご連絡を頂きました。2011年3月11日の東日本大震災で被災され、近しい方々を亡くされた宮城県南三陸町のご婦人方がひとつひとつ心を込めてお作りになられた“絆姫人形”を、フランス遺族会へ届けて貰いたい、という旨でございました。
2015年11月13日のパリ同時多発テロはじめ、各地で起きたテロにより奪われてしまった尊い命を偲び“被害者ご遺族の方々に寄り添いたい”という思いからのこと、勿論喜んでお引受け致しました。阪本監督とのご縁は『北のカナリアたち』という映画へ息子が、森山未來さんの子供時代役で参加させて頂きましたことからで、映画内ではあろうことか、主演の吉永小百合さん演ずる分校の先生へ小学生の息子が石を投げつけるというシーンがあり、当時は“サユリスト”からカミソリでも送り付けられて来るのではとヒヤヒヤしたものでございました。その阪本監督と椎井プロデューサー、そして南三陸のご婦人方の思いを何とかお届けしたくもなかなか糸口見つけられず、しかしながら最終的に在仏日本国大使館さま、在仏日本人会さま、日仏文化協会さまのご協力を賜りまして2018年、2年間の時を経てようやくAFVT（仏テロ被害者協会）さまへ公式な形で“絆姫人形”300個余りをお渡しすることが叶いました。一番の立役者は我らが在仏日本人会会長片川喜代治さま。ムッシュ片川のお力添え無くしては実現出来ない事でございました。
会場では南三陸ボランティアチームからのお便りが読み上げられ、悲しみをわかち合う中で涙を拭うお姿もあちこちで見られましたが、苦境にあっても互いの心に寄り添い逞しく生きてゆこうと再確認されたかのように“絆姫人形”を選び持ち帰る姿に清々しさが感じられました。
また、2023年にご逝去された親日家のジェーン・バーキンさん、実は東日本大震災後何度も日本を訪れ支援を続けておられ、南三陸のマダム方ともご交流があられたとのこと。そこで“絆姫人形”贈呈式へご同席頂けたらと友人を通してコンタクトするも、ライブ期間と重なり残念ながら叶わず、それでも後日ショートメッセージを下さるなど、あたたかなお心にただただ感謝致しました。
東日本大震災の折はまだ関西で暮らしており、不気味な揺れに見舞われ、程なくニュースに様々な映像が流れ始めたことを、3月が来るたびに思い出します。フランスからも沢山のご支援、メッセージが届いていました。その後狂言の普及を主な目的としてパリへ移り住みましたが、震災から7年後のその日、日仏で繋がる“絆-lien-”の場面に立ち合わせて頂けたことは大変有り難く、様々な悲しみと対峙しつつ屈しないご遺族のお姿に触れ、勇気と共に生かされている奇跡に感謝するばかりでございました。
自然災害の多い日本、常に天地の脅威に晒され各所での災いは止まること知らず、今でも不便を強いられながら日常を過ごさなければならない方が多くいらっしゃいます。その中で私どもは一体何が出来るのでしょうか、伝統芸能、能楽、演劇の存在意義を問いつつ明確な回答を模索する日々であったりも致します。本日はこの辺で。平和への祈りを込めて。

photo: 2018年“絆雛人形”贈呈式の様子とJ.バーキンさんからのメッセージ

小笠原尚子（おがさわらたかこ）プロフィール：
“やんちゃ狂言師の裏方古女房” 東京生まれ。神戸→名古屋→横浜→佐渡ヶ島育ち。故八世野村万蔵主宰“わざおぎ塾”にて学生時代に演劇を勉強中、狂言師小笠原匡と出逢い1996年に結婚、伝統芸能の世界に入る。その後、大阪生活を経て2014年よりパリ在住。現在、パリで狂言普及活動の傍ら、自らは役者業を再開⁈（このエッセイでは、日仏文化体験を通し、狂言師一家の四半世紀を振り返ります）

舞台裏より愛をこめてvol.21 / 小笠原尚子 / n°312

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