会報 / 最新号コラムより
舞台裏より愛をこめてvol.11 / 小笠原尚子 / n°302
2014年に子ども2人、わんこ2匹とフランスへ参り、間も無く10年を迎えます。こちらでの様々な出会いを通して多くのご縁を頂戴し、ありがたくも“その国で初の狂言公演”というタイトルを頂く機会もございました。パリからの出張公演、ハンガリーはブダペスト、北アフリカのアルジェリアはアルジェでの“お初”、異国での文化交流は誠に興味深く充実の時でございます。つい先ごろは、ベトナム首都のハノイ、更にハノイから70km程のハナム省にて“お初狂言”の機会を頂戴致しました。
パリでのご縁から、日越外交関係樹立50周年記念事業参加のお話を頂戴し、ハノイ文廟(孔子廟)に於いて小笠原親子による狂言3回公演、並びに同会場にてモンマリ作能楽面展が実現。ハナム省タムチュック寺院外苑では式楽『三番叟』。その夜には現地役者さん方参加による狂言『茸』を披露致しました。天下泰平・五穀豊穣を寿ぐ『三番叟』の舞は祝祭の儀に相応しく、その『三番叟』上演に際し、日本から狂言方、囃子方が来越、重要無形文化財総合指定保持者7名を含む11名での奉納公演が執り行われました。
実はモンマリの中に常々“現代における延年(寺院において大法会の後に僧侶や稚児によって様々な歌舞が演じられた大芸能祭)の再構”がテーマのひとつとしてあり、日本でパリで“延年之會”なるものを主催公演として継続しておりますのですが、今回はまさに“令和の猿楽師たち海を渡り越南の地へ…延年 au Vietnam”でございました。
“ハナム省文化観光週間2023開幕式及び越日文化芸術交流の夕べ”ということで、僧侶方によるタムチュック寺院での国家安寧祈念法要後、寺院外苑にて式楽『三番叟』奉納、夜には2万人のお客様が見守る中、狂言“茸”に続き、歌に踊りに最後は大花火大会と、さながら現代の“延年”に身をおいているかの如く、またこの日は奇しくも、僧侶であった亡き父の誕生日でもありましたことからか、そこはかとなく大きなものに抱かれていた感覚もございました。加えて晴れ男モンマリも本領発揮、一週間の雨マークを大きく裏切り、全野外5回公演露寄せ付ける事無く終演を迎えました。能楽の神さまもきっと目を細めながら日越交流のさまをご覧でらしたことでしょう。
写真: 左上『三番叟』右上『能楽面展』左下『文廟公演』右下『2万人のお客様』
さて、わたくしにとりましては初の海外アジア圏訪問とあり、平均年齢30歳という越南国のエネルギーと、オートバイ溢れる活気に満ちた様は実に刺激的な光景で、パリへ戻りましてからもしばらくベトナムロスは続き、その様な中思い出しましたのはモンマリとのやり取り…公演、展示会、ワークショップと日々タイトスケジュールにありながらも「ベトナムといえばアオザイでしょう!君、真っ赤でギャギャン(?)っと刺繍の入ったアオザイ買いなさいよ!」と相変わらずハイテンションのモンマリ。Mme.地味エンヌのわたくしにそれは大それたこと思いつつ、それでも試着するだけしてみましょうよとなり、ギャギャン(?)刺繍入り真紅アオザイを纏いましたところ、店員さんより「よくお似合い!」とのおだてを頂き、「またまたぁ」と返答しつつ当人まんざらでも無く、ならば還暦の際のお衣装にと調子に乗りレート計算頂きまして見事、意気消沈…十数万円の真っ赤なギャンギャン(?)刺繍入りアオザイは、悲しいかな、夢に終わりましたのでございます。本日はこの辺で。
平和への祈りを込めて。
小笠原尚子(おがさわらたかこ)プロフィール:
“やんちゃ狂言師の裏方古女房” 東京生まれ。神戸→名古屋→横浜→佐渡ヶ島育ち。故八世野村万蔵主宰“わざおぎ塾”にて学生時代に演劇を勉強中、狂言師小笠原匡と出逢い1996年に結婚、伝統芸能の世界に入る。その後、大阪生活を経て2014年よりパリ在住。現在、パリで狂言普及活動の傍ら、自らは役者業を再開⁈(このエッセイでは、日仏文化体験を通し、狂言師一家の四半世紀を振り返ります)
バックナンバー
舞台裏より愛をこめてvol.1 / 小笠原尚子 / n°290
舞台裏より愛をこめてvol.2 / 小笠原尚子 / n°291
舞台裏より愛をこめてvol.3 / 小笠原尚子 / n°292
舞台裏より愛をこめてvol.4 / 小笠原尚子 / n°293
舞台裏より愛をこめてvol.5 / 小笠原尚子 / n°294
舞台裏より愛をこめてvol.6 / 小笠原尚子 / n°295
舞台裏より愛をこめて番外編 / 小笠原尚子 / n°296
舞台裏より愛をこめてvol.7 / 小笠原尚子 / n°297
舞台裏より愛をこめてvol.8 / 小笠原尚子 / n°298
舞台裏より愛をこめてvol.9 / 小笠原尚子 / n°299
舞台裏より愛をこめて続・番外編 / 小笠原尚子 / n°300
舞台裏より愛をこめてvol.10 / 小笠原尚子 / n°301