会報 / 最新号コラムより

舞台裏より愛をこめてvol.20 / 小笠原尚子 / n°311

2025.03.25

新春を寿ぎ謹んで新年のお慶びを申し上げます。
旧年中は当ソフト暴露コラムご愛読賜りましたこと、心より感謝申し上げますとともに、皆さまにおかれましては、この一年益々なるご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げます。新たな年を迎え、皆さまいかがお過ごしでいらっしゃいましょうか。わたくしは昨年11月のパリ狂言会開催後、毎年楽しみにしておりますキノタヨ現代日本映画祭オープニングと日本人会ディディエシャンソンクラスコンサートを堪能後、シャンゼリゼ大通りイルミネーション点灯初日を目に焼き付けそそくさと帰国して参りました。日仏で主催公演開催ごとに準備の為移動する生活が定着して参りまして、帰国後は新年早々国立能楽堂にて開催の公演準備に取り掛かり、またも座席表とにらめっこ、空席を埋めるべく半鬱状態の日々でございました。
大体この頃に襲われますのがモンマリによる横槍、舞台前のピリピリが始まり、こちらが正当なことを言おうとも“オレは間違ってない！”の一点張り、出ていけ！と言われることもあったりで。昨年上半期のパリ狂言会時などは、皆さまの歓声を頂き浮き浮きと終演後楽屋へ参りましたら、壮絶な父子の言い合い、と申しますか、モンマリの攻撃的且つ一方的な言葉が連なり耳を塞ぐほどのことが繰り広げられており、取っ組み合いになろうかという状況に。充分に大きすぎるモンマリの声は激昂も相俟ってホワイエまで響き渡り、理由もわからぬままぷりぷりしながらモンマリはひとりご帰宅。わたくしはわたくしで、もうあの理解不能な癇癪には堪忍ならぬと、翌日、フランスから日本の区役所サイトへアクセスし“離婚届”をプリントアウトしてモンマリの目につくところへ置いてやったのでございます。ええ、そう、新年の一大事とはこの離婚騒動…ではなく、全く逆のことでございまして…
実は、でございますよ、もう手に負えんと離縁を視野に入れておりました憎々しいモンマリが…何と当初の“モンマリ”命名祈願通り、丸くなってしまったのです… 渡仏当初を知るムッシュに久しくお会いすると「まだ夫婦続けてるんですか⁈」と、聴かれること3回ほどあり、最近では大人になった息子も「ボク的には4回ぐらい詰んだ（終わった）と思ってるんですけど、何だかんだで、ねぇ？」と、合いの手が入るようになり、様々な擦った揉んだを繰り返す中、仏法を学ぶ娘からの忠告（説法？）が功を奏したのか、５歳児モンマリが多少大人に近づいたようなのでございます。良い人になってしまってはコラム継続に支障が…が、しかし、ご心配無用、ストックはたっぷりございます故、ブラック時代のモンマリについて益々記述し易くなりましたことと、むしろ良き変化でございまして。巳年年男のモンマリは「今年還暦を迎える私は、脱皮をして生まれ変わるのだ」と公言、つい先ごろの舞台におきましては、大抵お小言が酒の肴となる宴席にて初めて「君の太郎冠者、今日はとても良かった。上手になった。」と息子を満座の前で褒めたのでございます。これには皆びっくり仰天、顔を見合わせながら、翌日の大雪を心配したりなど。奇しくもこの日は父の命日でもあり、生前モンマリを役者としては一目置くことこそすれ、両親の前でも癇癪お構いなしの様子にやるせなさを感じていた父もきっと、天上で喜んでいたに違いありません。前回の癇癪＆離縁騒動もそこそこ反省を促したようで、その後ピリピリの予測される大舞台が3回ほどございましたが、なんとこれまでに無く穏やかに終了し、もしかしてこのまま穏やかな“チャーミーグリーン”な夫婦になれるのかしら、と気を許した矢先、今年も年明け間も無くの結婚記念日を見事スルーされましたことは言うまでもございませず。ちゃんちゃんっ！本日はこの辺で。平和への祈りを込めて。

photo: 父の命日に“脱皮”宣言。お酒の勢いで無いことを願う！

小笠原尚子（おがさわらたかこ）プロフィール：
“やんちゃ狂言師の裏方古女房” 東京生まれ。神戸→名古屋→横浜→佐渡ヶ島育ち。故八世野村万蔵主宰“わざおぎ塾”にて学生時代に演劇を勉強中、狂言師小笠原匡と出逢い1996年に結婚、伝統芸能の世界に入る。その後、大阪生活を経て2014年よりパリ在住。現在、パリで狂言普及活動の傍ら、自らは役者業を再開⁈（このエッセイでは、日仏文化体験を通し、狂言師一家の四半世紀を振り返ります）

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