会報 / 最新号コラムより

舞台裏より愛をこめてvol.24 / 小笠原尚子 / n°315

2025.10.18

秋の訪れを感じる今日この頃、皆さま、夏のヴァカンスはいかがお過ごしでいらっしゃいましたでしょうか。
ご来場下さいました方もあられるのではと存じつつ…去る9月9日、Aix-en-Provenceのサン=ミトル日本庭園の能舞台で、能楽公演が開催されました。重陽の節句である9月9日は、奇しくも私どもがフランスに降り立ちパリ生活をスタートさせました日、丸11年を迎え12年目に突入というタイミングでございました。11年前のこの日は、親子で先の見えぬ不安に包まれておりましたが、個人レベルでの草の根活動10年越えのご褒美ともいえましょうか、本年は能楽協会さま主催の公演へ息子が携わらせて頂くという有り難い機会を頂戴致しました。
Aix-en-Provenceは熊本市と姉妹都市で、この能舞台は熊本出身の能楽師シテ方喜多流・狩野丹秀師が1992年に寄贈された舞台とのこと、フランスで唯一本物と言える能舞台、半野外ということから本来の能舞台の姿を感じることが出来たりも致します。
実はAix-en-Provenceの能舞台、わたくしにとりまして大切な思い出の場所でもございます。それは、2015年に出逢いましたShioriさんとの思い出、あるコンサートの受付お手伝いがご縁でございました。その日意気投合しましたわたくし達「わたしも日本文化を紹介する仕事をしています。何か一緒に出来たらいいですね！」と人懐っこいShioriさんのクリクリとした瞳の輝きに吸い込まれましたわたくしは、「はい！是非！」と二つ返事、パリ生活を始めて1年余り、知り合いもそうおらずでありました中、心強いお言葉でした。
そこから程なくして、マルセイユとリヨンを巡る旅の計画を立て、今後の足掛かりになればとのことで、Shioriさんが親しくされておられた領事の皆さまをご紹介頂き訪問しましたのが翌年３月。これらの旅程ご相談の最中に、しおりさんのご持病についての告白がございました…道中多分問題無いと思うけれど、こればかりはいつどうなるかという状況でした。様々2人で計画し、ご提案の旅程とタスクを無事終えホッとするも束の間、そうこうするうちにご入院のご連絡を頂き、聴けば半年も前から不調が続いておられたとのこと、爆弾を抱えながらも、日本文化普及の為と、私どもの船頭を担ってくださったことを後から知ったのでした。
治療でご帰国の際は、大阪での狂言会へお運び下さったり、折に触れ企画書の内容や、パリでの公演状況についてご心配を頂戴しておりました。そして、2019年の10月、わたくし帰国のタイミングで再会を約束しておりましたが、帰国致しましたその日の飛行機丁度着陸の頃、44歳という若さで天に召されました。間に合わなかった…と、ただただ悔やまれました。
Aix-en-Provenceでの公演が何とか実現出来ないものか、パリでの公演はどのように進めていこうか、等、二人の幾多に渡るやり取りを見返しつつ、いつもお心寄せ下さっていました息子が、この度Aix-en-Provenceの能舞台に立つことが叶い、天上できっとShioriさんが目を細め喜んで下さっているのでは、と感じております。今日に続く活動は、多くの方との出逢いとご協力の上に成り立っております。Aix-en-Provence能楽公演に際し、Shioriさんのお姿を偲ばせて頂きました。
本日はこの辺で。
平和への祈りを込めて。
追伸:次回パリ狂言会は11月16日(日)の予定

photo：Aixの能舞台前でShioriさんと共に(2016)

小笠原尚子（おがさわらたかこ）プロフィール：
“やんちゃ狂言師の裏方古女房” 東京生まれ。神戸→名古屋→横浜→佐渡ヶ島育ち。故八世野村万蔵主宰“わざおぎ塾”にて学生時代に演劇を勉強中、狂言師小笠原匡と出逢い1996年に結婚、伝統芸能の世界に入る。その後、大阪生活を経て2014年よりパリ在住。現在、パリで狂言普及活動の傍ら、自らは役者業を再開⁈（このエッセイでは、日仏文化体験を通し、狂言師一家の四半世紀を振り返ります）

舞台裏より愛をこめてvol.24 / 小笠原尚子 / n°315

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