会報 / 最新号コラムより

舞台裏より愛をこめてvol.18 / 小笠原尚子 / n°309

2024.10.04

パリオリンピック、パラリンピックで沸きましたこの夏、皆さまいかがお過ごしでいらっしゃいましたか？わたくしは、8月下旬開催のモンマリ主催公演準備のためその数ヶ月前から帰国し、つい先ごろなんとか終了、今度は11月パリ公演準備に向けパリへ戻りませうという段におります。
モンマリが主催公演を活発化させて参りましたここ数年、一年の大半を客席とチケットの心配で過ごしているように感じておりました中、気が付けばこの9月でパリ生活丸10年を迎えておりました。
当初は今のような生活スタイルになるとは予想だにせず、中、高校生になる子供たちと生活の基盤作りに悪戦苦闘しておりましたが、それでもいずれフランス様式に馴染み、夏はヴァカンス、冬はノエル、なキラキラパリ生活をイメージしておりました。ところがどっこいそうは問屋が卸さずで、下の息子が成人を迎え、言葉の問題もほぼ無くなって参りました途端、モンマリの野望はむくむくと膨れ上がり、日仏での主催狂言会をこれでもかという程頻繁に開催するようになりまして。その都度夫婦間ではドンパチ、特に娘などはヒヤヒヤしていたに違いありません。
photo：私と僕はこれからどうなるの？と不安を抱えながら 2014年

さて10年ひと昔と申しますが、なかなか激動の10年間でございました。モンマリよりパリへ行けとの発令で渡仏、その後久しく帰国しましたところ、寝室がものの見事無くなっていたことは驚愕させられたことのひとつでございます。
結婚当時ネットもない時代、脚を棒にしながらいくつもの家具店を探し回り見つけたお気に入りのイタリアン円形ダイニングテーブルセットに、同じくお気に入り白いアンティーク調アイアンベッドが跡形もなく撤去され、学者先生から本棚ごと譲り受けた大量の書籍と、装束（舞台衣装）が寝室であった部屋に所狭しと積み上げられておりましたものですから、はて？わたくしども親子どこで寝れば良いものかモンマリへ尋ぬれば、指さされた先には長座布団…まさか50歳を目前に長座布団に寝かさるるとは夢にも思わず、勿論、平和な日本で贅沢な愚痴ではあるものの、が、しかし、でございました。“芸術家さんはしょうがないのよねぇ〜”いえ、皆さま、お願いでございます、モンマリを甘やかさないで下さいませ。２枚縦列長座布団で横になればそのうち隙間にお尻が落ち込みほぼ床で寝ているような毎日。全て“気合い”で何とかなるという思考のモンマリへ、その後数年かけて愚痴愚痴、コロナ後50歳を迎えようやくソファーベッドへ昇格、パリでは節約のため、ベッドこそ無けれども、床置きのベッドマットはあります故、つまりわたくしの睡眠はパリにてようやく確保されるわけでございます。
愚痴ついでにもうひとつ、モンマリの辞書に“ヴァカンス”という文字はございませず、我が家のカレンダーは月月火水木金金〜♪今年のお盆は実家へも帰らせて頂けず、もっぱらお友達のSNSヴァカンスのご様子拝見で指くわえつつ疑似体験…そんな夫婦（特にわたくし）を哀れに感じて下さいました友人がかつて浜名湖に、そしてお弟子さんが嵐山に、泊まりがけで招いてくださったのが貴重なヴァカンス実績。常に何かを考え予定表に書き込みが無ければ落ち着かないモンマリとの共同生活は、家内工業というスタイルも相まってわたくしを拘束するものでございます。奇しくもパリの我が家近くの広場は“人権広場”。パリで学んだ人権に対する主張をモンマリへ向けて主張してゆく所存でございます。何やらパリ生活10年を経ての決意表明染みてしまいましたが、さて皆さま、パリ狂言会は来たる11月17日(日)、手帳へメモメモよろしくお願い申し上げます！本日はこの辺で。
平和への祈りを込めて。

小笠原尚子（おがさわらたかこ）プロフィール：
“やんちゃ狂言師の裏方古女房” 東京生まれ。神戸→名古屋→横浜→佐渡ヶ島育ち。故八世野村万蔵主宰“わざおぎ塾”にて学生時代に演劇を勉強中、狂言師小笠原匡と出逢い1996年に結婚、伝統芸能の世界に入る。その後、大阪生活を経て2014年よりパリ在住。現在、パリで狂言普及活動の傍ら、自らは役者業を再開⁈（このエッセイでは、日仏文化体験を通し、狂言師一家の四半世紀を振り返ります）

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